これまで可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の症例について報告してきました。

当頭痛外来のこれまでの診療経験から、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と片頭痛との関連について考察しました。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、雷鳴頭痛と表現される「頭の中で突然雷が鳴ったような激しい頭痛」で発症する特徴があります。入浴やシャワー、水泳、ダイビング、排便、興奮、性交、筋トレ、大声、咳やくしゃみなどが引き金となって発症します。交感神経系の緊張のため、普段高血圧でなかった方でも血圧が上がる事があります。
MRA検査で脳血管を撮像すると、

このように至る所で脳血管がくびれて見える所見が特徴です。片頭痛ではこのような脳血管の変化は見られません。
当頭痛外来を受診した可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)のほとんどが、元々片頭痛のある方です。また、今まで片頭痛がなかった方でも、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を発症した後に慢性頭痛を生じるようになった場合もあります。国際頭痛分類第3版では、「6.7.3.3 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の既往による持続性頭痛」として分類されています。これは慢性片頭痛に移行したものと考えられます。Yu-Hsiangらの論文1)でも、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を発症した後に約半数の患者がpost-RCVS headacheとも言うべき頭痛をきたすようになり、それは片頭痛の特徴を持った頭痛であったと述べています。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を発症した際に、片頭痛の特徴である閃輝暗点を伴っていたり、光や音に過敏になるなど片頭痛としての特徴を示していたりする事もあります。
Jérômeらのレビュー2) によると、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と片頭痛では、脳血管の緊張度の変化を起こす共通の要因が存在しているのではないかと推測しています。
当頭痛外来の過去の診療実績を見ていただくと、可逆性脳血管攣縮症候群の症例数(両医院合わせて2279例)が多い事がお分かりでしょうか?これらは全てMRA検査で確定的な所見が得られたものを記載しています。
従来の医学的見解では、重症のケースしか注目していなかった等の理由により、可逆性脳血管攣縮症候群はまれな疾患であるという認識です。
片頭痛では、脳の血管が収縮した後に拡張して痛みを起こします。可逆性脳血管攣縮症候群はこの収縮現象が過剰になった状態とも考えられます。
当頭痛外来の経験から、可逆性脳血管攣縮症候群は決して少なくない疾患であり、片頭痛と相互に移行するものであると認識しています。様々な病態を生じる「片頭痛症候群」の一部の局面を見ているのではないかと推測します。
こうした推論に基づいて、当頭痛外来では可逆性脳血管攣縮症候群の治療薬として片頭痛の予防薬も用いています。
文献
- Yu-Hsiang Ling, Yen-Feng Wang, Jiing-Feng Lirng, Jong-Ling Fuh, Shuu-Jiun Wang, Shih-Pin Chen. Post-reversible cerebral vasoconstriction syndrome headache. J Headache Pain. 2021 Mar 25;22(1):14. doi: 10.1186/s10194-021-01223-9.
- Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The link between migraine, reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56. doi: 10.1111/head.12798. Epub 2016 Mar 26.
(文責:横浜脳神経内科副院長 木島 千景)