片頭痛のある方で、くも膜下出血を起こす場合がまれにあります。
症例
50代前半の男性です。20年来の頭痛持ちで、片頭痛と診断されていました。
会社で上司と言い合いをして大声を出したところ、急に後頭部の割れるような強い痛みに襲われ、その場にうずくまってしまいました。
頭痛はいったん軽くなり帰宅しましたが、その後も断続的に頭痛を繰り返しており、トリプタン(片頭痛の発作時の頓服薬)を何回か飲んだのですが、全く効かないどころか、かえって頭痛が強くなってきました。
「これは今までの片頭痛とは違う、何かおかしい」と思い、5日後に横浜脳神経内科を受診しました。
脳頭部MRI検査では、
本来は黒く見えるはずの脳の隙間の一部が白くなっており、少量の血液の成分である事が分かります。
円蓋部(頭のてっぺんに近い方)のくも膜下出血です。
MRA検査(MRIを用いた脳血管撮影検査)を見たところ、
脳の血管の所々に、くびれて細くなった部分が見られています。しかしくも膜下出血を起こす原因となる脳動脈瘤は認めませんでした。
可逆性脳血管攣縮症候群
(RCVS: Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)
と診断しました。
一般にくも膜下出血の多くは、脳の血管にできた脳動脈瘤(血管のコブ)が破裂して生じます。
一方で、円蓋部くも膜下出血の原因はRCVSやPRES(可逆性後方白質脳症:急な血圧上昇や薬剤などの影響で脳実質がむくむ状態)、静脈洞血栓症(脳静脈に血栓ができて詰まる病気)、動脈解離(血管の壁の層が一部はがれる病気)、血管奇形、アミロイド血管症(高齢者に多い病気)などが挙げられます。
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血と違い、重症になる事はほとんどありません。わずかな出血のため、CT検査での検出は難しい場合があります。
この方の場合は、脳実質に異常は見られず、脳血管の攣縮以外に明かな異常がなかった事から症状と経過と合わせてRCVSに合併したくも膜下出血と考えられます。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)にくも膜下出血が合併する割合は約30〜34%と言われます。1)2)3)
RCVSを起こした方の中でも、片頭痛がある事や女性がくも膜下出血を起こしやすいと報告されています。4)
その病態は、脳血管攣縮に伴う脳表の血管のダメージや血管透過性の変化により微小な血液が漏れ出た状態と推測されているため、トリプタン(片頭痛の頓服薬)は使用しない方が安全と考えられます。
文献
- Ducros A, PhD, Fiedler U, Porcher R, et al : Hemorrhagic Manifestations of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome : frequency, features, and risk factors. Stroke. 2010 ; 41(11) : 2505-2511.
- 2) Singhal AB Hajj-Ali RA Topcuoglu MA et al. Reversible cerebral vasoconstriction syndromes: analysis of 139 cases. Arch Neurol. 2011; 68: 1005-1012
- Aneesh B Singhal, Rula A Hajj-Ali, Mehmet A Topcuoglu, Joshua Fok, James Bena, Donsheng Yang, Leonard H Calabrese Reversible cerebral vasoconstriction syndromes: analysis of 139 cases. Arch Neurol. 2011 Aug;68(8):1005-12.
- éChen SP, Fuh JL, Wang SJ. Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: an under-recognized clinical emergency. Ther Adv Neurol Disord 2010;3:161-171.
(文責:横浜脳神経内科副院長 木島 千景)