筋トレ頭痛の原因と対策について説明します。

筋トレ頭痛の原因
一説を含め、一般に考えられている可能性を挙げます。
1. 一次性運動時頭痛
一次性運動時頭痛は、激しい運動中または運動後に発生する頭痛です。ズキズキとした拍動性の痛みが特徴です。特に、持続的な運動や筋力を要する活動が引き金となる事が多いとされています。
筋トレ頭痛で来院したケースを見ると、当院の経験ではほとんどが6.の可逆性脳血管攣縮症候群です。実際には、一次性運動時頭痛はこの疾患であると捉えています。この理由は、従来MRI検査による詳しい検討がなされてこなかったため、この病名が付けられていたものと思われます。
2. 過剰な筋肉の負担
首や肩の筋肉への過剰な負荷がかかると、筋肉が疲労し、頭痛を生じるという説です。
この説は、単に筋トレ頭痛のきっかけとなる状態を述べているだけで、メカニズムの説明にはなっていません。
3. 脱水症状
運動中の水分補給が不充分だと脱水が進行し、これが頭痛の原因になるという説です。
脱水状態がどういう作用で頭痛をきたすのかという説明にはなっていません。
4. 酸欠状態
呼吸が浅くなり、酸欠状態になるために頭痛を起こすという説です。
これも筋トレ頭痛の誘因の1つ述べているに過ぎず、メカニズムの説明にはなっていません。
5. 血圧の急上昇
筋トレ中に血圧が急上昇する事で頭痛を起こすという説です。
下記の可逆性脳血管攣縮症候群では血圧が上昇する事があり、これは原因ではなく結果です。
6. 可逆性脳血管攣縮症候群
雷鳴頭痛と呼ばれる突然で激しい頭痛です。この頭痛は、1分以内にピークに達し、持続時間は約1時間から3時間です。そして、その後も強い頭痛を繰り返す状態となります。
筋トレでも急に負荷が加わる息止め動作により、脳動脈が収縮して生じます。無酸素運動と交感神経系の過剰反応が誘因となります。また、普段血圧が高くない方でも、血圧が上昇する事があります。
7. 椎骨動脈解離
突然の後頭部や首の痛みで発症します。首の後ろに位置する椎骨動脈の内膜が傷つき、血液が血管壁に入り込む事によって発生します。また、脳梗塞やくも膜下出血を発症する事があるため、注意が必要です。
8. くも膜下出血
今まで経験した事のないような突然の激しい頭痛で発症します。脳動脈瘤という、血管にできたコブが破裂して生じます。運動により血圧が上昇する事きっかけになりやすいです。最悪突然死もあり得る危険な状態です。
以下に、実際に横浜脳神経内科を受診した症例を提示します。
筋トレ頭痛の症例1
30代の女性で、20歳頃から時々頭痛がありました。
筋トレ中、急に後頭部の激しい頭痛が出現しました。約20分でいったん頭痛は軽くなり、帰宅しました。しかし、その後も運動する度に頭痛が悪化し、数日が経ちました。何か脳の重大な病気ではないかと心配になり、当院を受診しました。
頭部MRA検査を見たところ、
後大脳動脈が所々で途切れたようになっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。
この疾患では、交感神経系の過剰反応が関係します。1)3)4) つまり、緊張や興奮が一気に頂点に達する動作で誘発されます。
国際頭痛分類第3版に「4.2 一次性運動時頭痛」という分類があります。そして、咳やいきみなどの刺激により突発的に起こる頭痛とされています。Parthらの最近のまとめ2)によると、一次性運動時頭痛は激しい運動により起こる急激な頭痛です。また、脳の重大な病気を除外した上で診断されるとあります。
筋トレ頭痛の多くは可逆性脳血管攣縮症候群であると考えられます。症状は数週間から1ヶ月で自然に改善するとされています。しかし、それまでの間強い頭痛に悩まされる事になり、生活に大きな支障をきたします。
そこで、当院では可逆性脳血管攣縮症候群の診断と治療に力を入れています。まず第一にくも膜下出血など重大な脳の病気を除外し、早期に適切な治療を開始する事が大事です。この方は、血管拡張薬と交感神経遮断薬、鎮痛剤で治療する事となりました。
筋トレ頭痛の症例2
40代の女性で、10代の頃から片頭痛と診断されていた方です。
筋トレ中、急に後頭部の血管が切れるかのような激しい頭痛が出現。そこで、持っていたトリプタンを飲んだのですが、全く効きませんでした。そして、翌朝になっても痛みは治まりませんでした。
その後6日が経ち、頭痛は治まりませんでした。今までこれ程長く頭痛はなかったため心配になり、当院を受診しました。
頭部MRA検査では、

椎骨動脈という、首から後頭部へ行く血管が変形しており、椎骨動脈解離と診断しました。
この疾患は、最悪くも膜下出血を発症して突然死をきたす事もある危険なものです。そこで、直ちに救急車で血管内治療のできる病院へ搬送していただきました。
筋トレ頭痛の原因の多くは可逆性脳血管攣縮症候群です。しかし、まれにこうした危険な疾患の場合もあります。さらに、椎骨動脈解離の詳しい病態については、専門家の記載5)をご参照ください。
筋トレ頭痛の対策
筋トレ中に頭痛が発生した場合は、直ちに運動を中止してください。重大な疾患の可能性もあるため、専門医を受診する必要があります。特に、以下の状態が疑われる場合には注意が必要です。
可逆性脳血管攣縮症候群
この疾患では、息を止めて瞬間的に力を入れる動作が引き金となります。ただし、下の椎骨動脈解離と紛らわしいため、注意が必要です。
椎骨動脈解離
椎骨動脈は、首の骨の両側から脳の中へ上がっていきます。したがって、首の骨を無理な力で曲げたり、首に強い負荷のかかる運動は危険です。また、ラグビーや柔道など激しいスポーツでも発症する事があります。 もし、運動中に首や後頭部に強い痛みを感じた場合には、直ちに中断して医療機関を受診してください。
可逆性脳血管攣縮症候群や椎骨動脈解離の場合は、緊急な治療が必要となります。横浜脳神経内科では、日本頭痛学会専門医・指導医、日本神経学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医が診療を行っています。不安な方は、お気軽にご相談ください。
文献
- Ducros A. Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Lancet Neurol 2012;11:906-917.
- Parth Upadhyaya, Arathi Nandyala, Jessica Ailani. Primary Exercise Headache. Curr Neurol Neurosci Rep
. 2020 Apr 15;20(5):9. doi: 10.1007/s11910-020-01028-4. - Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The link between migraine, reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56.
- Ducros A, et al. The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016. Apr;56(4):657-73.
- 解離性脳動脈瘤 | 昭和大学病院
(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹)