後頭部や首が痛い原因について説明します。
MRA検査はMRIを使って脳血管を描き出す方法です。血管の変化をとらえる事で、椎骨動脈解離や可逆性脳血管攣縮症候群といった重大な疾患が見つかる事があります。
ところが、この2つの疾患はMRAでも区別が難しい症例が存在します。
症例1
元々片頭痛のある50代の女性です。朝起きた際に、左の首に強い痛みを感じました。 寝違えたかと思い、首を少し曲げたところ、痛みはさらに強くなりました。翌々日になっても痛みが続いていたため、当院を受診しました。
MRA検査を行いました。
左椎骨動脈(左の首から後頭部へ行く血管)が変形しています。
この所見だけを見ると、椎骨動脈解離とも可逆性脳血管攣縮症候群とも取れます。
そこで、T1BB法(T1 black blood method)という特殊な撮像法を行いました。
これは血管壁の血栓を描き出す方法です。
白く写っている部分が、左椎骨動脈の内側にできた血栓を示します。椎骨動脈解離の進行過程において、血管壁に血栓ができます。そこで、この血栓を描き出せれば診断ができます。
症例2
元々片頭痛のある30代の女性です。スポーツジムで筋トレーニングをしていた際、突然右の後頭部から首にかけて激痛が走りました。翌日になっても痛みが続いていたため、当院を受診しました。
MRA検査を見てみました。
右椎骨動脈(右の首から後頭部へ行く血管)に、症例1と同じ様な変化があります。
しかし、T1BB法で見ても血栓を示す白い部分はありません。
さらに、ASL(arterial spin labeling)法1)という脳血流を見る検査で、
後頭葉の血流が低下しており、これは可逆性脳血管攣縮症候群でしばしば見られる所見です。
このように、複数の検査方法を組み合わせる事で、この症例は椎骨動脈解離ではなく椎骨動脈に生じた可逆性脳血管攣縮症候群と診断できます。
患者さんへのアドバイス
以上2つの症例は、いずれも元々片頭痛のある方です。椎骨動脈解離も可逆性脳血管攣縮症候群も、脳血管の収縮や拡張に関係し、片頭痛自体が脳血管の収縮と拡張で起きる点で共通しています。特に、椎骨動脈解離では、血管の変化を繰り返す事でひずみを生じて発症するとされています。
したがって、片頭痛を減らす事がこうした疾患の予防になり得ると考えられます。
片頭痛の悪化要因として、ストレス、PCやスマートフォンなどからの光、食事など生活習慣によって左右される部分が大きいと思われます。
(参考)
生活習慣の改善により片頭痛が減れば、こうした疾患の予防にもあると思われます。
文献
- 森田 隆雄. 有廣 昇司, 鶴﨑 雄一郎, 坂井 翔建, 芳賀 整. Arterial spin labeling法による頭部MR灌流画像で血行動態を評価した 頸部内頸動脈攣縮症の1例. 臨床神経 2022 May;62(3):178-183.
- Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The Link Between Migraine, Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and Cervical Artery Dissection. Ann Neurol. 2010 May;67(5):648-56.
(文責:理事長 丹羽 直樹)