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頭痛コラム

  • 可逆性脳血管攣縮症候群

    監修:横浜脳神経内科 丹羽直樹医師(日本神経学会専門医)
    投稿日:2021年12月15日|最終更新日:2026年3月1日

    可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome: RCVS)

    「可逆性」という名前の通り、発症から数週間~数ヶ月で血管の異常が自然に元に戻るのが特徴ですが、くも膜下出血など命に関わる疾患と症状が似ているため、早期の正確な診断が重要です。

    【RCVSの基本データ】
    • 好発年齢:20~50代(小児や高齢者も稀にあり)
    • 性差:女性に多い傾向がある
    • 主な症状:雷が鳴ったような突発的な激痛、吐き気、光過敏など
    可逆性脳血管攣縮症候群

     

    主な症状:雷鳴頭痛とは

    RCVSの最も特徴的な症状は、「雷鳴頭痛」と呼ばれる激しい痛みです。

    • 痛みのピーク:数秒から1分以内にピークに達する
    • 持続時間:1回あたり1~3時間ほど続く
    • 頻度:1週間~数週間の間に何度も繰り返す
    • 場所:後頭部から頭全体(両側性が多い)

    頭痛以外にも、閃輝暗点(光が見える)、手足のしびれ、呂律が回らないなどの神経症状を伴うことがあります。発症1週間以内は、稀に脳梗塞やくも膜下出血を合併するリスクがあるため注意が必要です。

    RCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)の診断基準

    出典1):Calabrese LH, et al. Ann Intern Med. 2007;146(1):34-44.

    可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の確定診断には、以下の5つの基準すべてを満たす必要があります。

    • 1. 脳血管の分節的収縮
      カテーテル血管造影、またはMRA/CTA等の画像検査により、脳動脈の多発性・分節的な収縮(数珠状の所見)が認められること。
    • 2. 二次性原因の除外
      脳動脈瘤の破裂による「くも膜下出血」などの他疾患が否定されていること。
    • 3. 脳脊髄液所見が正常に近い
      髄液検査において、タンパク 80mg/dL以下、白血球 10/mm³以下であり、明らかな炎症反応がないこと。
    • 4. 特徴的な激しい頭痛
      突発的な激しい頭痛(雷鳴頭痛)を主症状とすること。※神経脱落症状を伴う場合もあります。
    • 5. 血管変化の可逆性(確定条件)
      発症から12週間(3ヶ月)以内に、血管の収縮所見が正常化(消失)すること。
    【専門医からの注釈】
    RCVSは初回の検査では血管に変化が出ないことがあり、数日後の再検査が重要です。また、「12週以内の正常化」を確認して初めて確定診断となるため、数ヶ月にわたる専門医による経過観察が不可欠です。

    また、Ducrosらの67例の解析結果により、RCVSの自然経過につき詳細な報告がなされています。これによると、頭痛が先行し後から血管変化を生じる場合があることも記載されています。2)

    原因と誘因(トリガー)

    明確な原因は解明されていませんが、日常生活の動作が「引き金(トリガー)」になることが知られています。

    • 入浴、シャワー
    • 排便、排尿、出産などの「いきみ」動作
    • 筋トレ、重い荷物を持つ
    • 性行為、自慰行為
    • 咳、くしゃみ、大笑い、号泣などの感情の高ぶり
    • 特定の薬剤(セロトニン作動薬、点鼻薬など)

    関連記事

    以下に、当院のRCVSの診療経験に基づいた関連記事を示します。

    RCVSの病態機序:血管運動調節能の一過性破綻

    RCVSの本態は、何らかの誘因による「一過性の脳血管運動調節能の破綻(Transient disturbance of cerebral vascular tone regulation)」と考えられています。主に以下の3つのメカニズムが複合的に関与していると想定されています。

    1 交感神経系の過活動 (Sympathetic Overactivity)

    カテコールアミンの急峻な上昇、あるいは血管側の受容体感受性亢進がトリガーとなります。産褥期や特定の薬剤(SSRI、血管収縮薬、情動刺激)が誘因となるのは、この交感神経系への依存度の高さに起因します。3)

    2 血管内皮機能不全 (Endothelial Dysfunction)

    一酸化窒素(NO)の産生低下やエンドセリン-1の相対的優位により、血管の収縮閾値が低下します。酸化ストレスによる内皮障害が、血管攣縮を遷延・増悪させる因子となります。

    3 求心性血管攣縮の進展 (Centripetal Progression)

    RCVS特有の現象として、攣縮はまず脳の遠位微小血管から始まり、数日〜数週間かけて中枢の主幹動脈(ウィリス動脈輪など)へと「求心性」に進展します。これが、初回のMRAが正常であっても数日後に数珠状所見が出現する臨床的理由です。

    【臨床的な示唆】
    これらの病態機序に基づき、横浜脳神経内科では早期のカルシウム拮抗薬投与による血管平滑筋の弛緩、および交感神経刺激の徹底した排除( Valsalva手技の回避、原因薬剤の中止)、必要により交感神経遮断薬を治療の柱としています。

    診断の流れ・検査

    診断のためには、以下のような検査が行われます。

    • MRA(脳血管のMRI検査):脳血管の狭窄や拡張を調べます。
    • 3D-CTA(CTによる血管撮影):より詳細な血管の形態を確認します。
    • 脳血管造影:必要に応じてカテーテル検査を行います。

    RCVSでは「多発性分節性狭窄や数珠状所見」が特徴的ですが、発症初期は画像に異常が出ないことも多く、繰り返し検査が必要な場合もあります。 これは、攣縮部位が末梢側から中枢側へ移動する求心性移行があるためで、横浜脳神経内科では、最初から末梢動脈に照準を合わせたMRAの撮像を行い、早期診断に努めています。また、くも膜下出血や動脈解離など命に関わる疾患との鑑別も非常に重要であり、必要によりBPAS法、ASL法、T1BB法などの撮像を加えています。

    実際の当院での症例報告

    症例1:入浴で発症した症例

    元々片頭痛持ちの30代女性です。

    入浴中、急に「バチン」と頭の中で何かが弾けるような激痛が走りました。慌てて浴槽から出て、あまりの痛みで床にうずくまってしまいました。這うように浴室から出て、30分位横になっていると、いったん痛みは軽くなりました。

    翌朝、シャワーを浴びたところ、やはり同じような頭全体に響く痛みが出現しました。今までの片頭痛とは違うと感じ、近くの脳神経外科を受診しました。頭部MRI、MRA検査を受けたものの、異常は見られませんでした。

    翌々日、今度は恐る恐るぬるい温度のお湯を体にかけました。すると、やはり激しい頭痛を生じたため、すぐに浴室から出ました。心配になり、横浜脳神経内科を受診しました。

    頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。

    可逆性脳血管攣縮症候群

    後大脳動脈という後頭部の血管が所々細くなっており(数珠状変化)、RCVSと診断しました。

    症例2:排便で発症した症例

    元々片頭痛のある50代女性で、慢性的な便秘がありました。

    排便の際、トイレでいきんだところ、突然後頭部を殴られたような激しい痛みが走りました。さらに、嘔吐もしました。鎮痛剤を飲んでいったん頭痛は軽くなったものの、完全には治まりませんでした。

    翌朝排便後に再び同様の激しい頭痛が出現し、今度は鎮痛剤を飲んでも効きませんでした。そこで、何か脳の病気ではないかと心配になり、横浜脳神経内科を受診しました。

    頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。

    可逆性脳血管攣縮症候群

    左側の後大脳動脈という血管を中心に、細くなった部分とソーセージのように拡張した状態が不規則に連なった状態でした。この所見から、RCVSと診断しました。

    当院の経験からの見解

    2012年11月1日から2025年12月31日までの当院の診療実績によると、片頭痛が16,175例、RCVSが3,624例です。このデータを分析したところ、RCVSの87.0%が、元々片頭痛のある方です。

    国際頭痛分類第3版では、「6.7.3.3 可逆性脳血管攣縮症候群の既往による持続性頭痛」として分類されています。これは慢性片頭痛に移行したものと考えられます。Yu-Hsiangらの論文4)でも、発症後に約半数の患者が片頭痛をきたすようになったと述べています。

    Jérômeらのレビュー5)では、RCVSと片頭痛とは、脳血管壁の変化を起こす共通要因が存在すると推測しています。

    可逆性脳血管攣縮症候群

    片頭痛では、脳の血管が収縮した後に拡張して痛みを起こします。RCVSはこの収縮現象が過剰になった状態とも考えられます。

    当院では、RCVSは片頭痛から移行した状態と認識しています。つまり、様々な病態を生じる片頭痛症候群の一局面を見ているものと推測します。

    治療と日常生活の注意点

    基本的には、誘因となる行動(いきみ、長湯など)を避け、安静に保つことで自然回復を待ちます。一般には、薬物療法としては以下が用いられます。

    • カルシウム拮抗薬:血管の収縮を和らげる(ベラパミルなど)
    • 鎮痛薬:痛みのコントロール(NSAIDsなど)

    発症から1ヶ月間の禁止・制限事項

    血管を再刺激しないよう、以下の点に注意してください。

    • ・長湯、熱いお湯(ぬるめのシャワーにする)
    • ・トイレや筋トレでの強いいきみ
    • ・血管収縮作用のある市販薬(鼻炎薬、一部の風邪薬)

    患者さんの不安にお答えするQ&A

    Q1. 「可逆性」とはどういう意味ですか?本当に元に戻りますか?

    A1. はい、文字通り「元に戻る」という意味です。 RCVSの最大の特徴は、一時的に脳の血管が収縮(けいれん)しても、通常1〜3ヶ月以内に血管の状態が完全に正常に戻ることです。診断名に「可逆性」と付いているのは、そのためです。

    Q2. またあの「雷が落ちたような激痛」が起きるのではないかと怖いです。

    A2. 痛みは最初の1〜2週間がピークですが、予防が可能です。 RCVSの頭痛(雷鳴頭痛)は、数日から2週間ほどの間に繰り返すことがありますが、その後は自然に治まっていきます。当院では、血管の収縮を和らげるお薬(カルシウム拮抗薬など)の処方や、頭痛を誘発する行動(入浴や運動など)のアドバイスを行うことで、再発の恐怖を最小限に抑えるサポートをします。

    Q3. くも膜下出血など脳卒中と同じ位危険な病気なのですか?

    A3. RCVSは、くも膜下出血など命に関わる疾患と症状が似ているため心配されますが、適切に診断・管理されれば、重篤な合併症を起こすケースはまれです。多くの患者さんは後遺症なく日常生活に戻れます。

    Q4. 家族や身近な人も発症しますか?

    A4. 現時点で家族内発症や遺伝性はほとんど報告されていません。ご本人の体質や誘因が主な要因です。

    Q5. 脳梗塞や脳出血になる事はありませんか?

    A5. 稀に合併する事がありますが、早期の適切な管理でリスクを下げられます。 RCVS自体は血管の痙攣ですが、強く収縮した際に稀に出血や梗塞を伴う場合があります。そのため、発症から数週間は「血圧を上げ過ぎないこと」や「血管を収縮させる薬(鼻炎薬や一部の頭痛薬など)を避けること」が非常に重要です。当院では精密な画像診断(MRA)でそのリスクを慎重に見守ります。

    Q6. 他院で診断を受けましたが、横浜脳神経内科で相談しても良いですか?

    A6. もちろんです。セカンドオピニオンを含め、継続的な管理を承ります。 RCVSは診断がついた後、「血管がいつ正常に戻ったか」を確認するまでが治療です。 「今の薬をいつまで飲み続けるべきか」「日常生活で何に気をつければ良いか」など、他院では聞きにくかった細かな疑問についても、専門医の立場から丁寧にお答えします。

    他院での検査結果(紹介状や画像データ)をお持ちいただければ、それに基づいた今後の見通しや、あなたに合わせたオーダーメイドの生活指導をさせていただきます。一人で悩まず、まずは一度ご相談ください。

    Q7. 普段の生活で、特に気をつける事は何ですか?

    A7. 「血管を刺激しない事」がポイントです。 特に発症から1ヶ月間は、以下のことに注意が必要です。

    • お風呂: 長湯や熱いお湯は避け、ぬるめのシャワー程度にしてください。
    • 力み: 重いものを持ったり、排便時に強く力んだりする事を避けましょう。
    • 薬: 市販の風邪薬や鼻炎薬(血管収縮剤入り)は、症状を悪化させる事があります。必ず服用前にご相談ください。

    まとめ

    RCVSは突然の激しい頭痛で発症します。怖い病名に感じるかもしれませんが、多くの場合は自然に回復し、元の生活に戻ることができます。症状や不安が強い時は、遠慮せず医療スタッフに相談してください。ご自身やご家族だけで抱え込まず、正しい知識とサポートで安心して治療に臨みましょう。

    文献

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    本記事は最新の医学情報をもとに2026年3月1日に更新されています。

    この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。

    理事長 丹羽 直樹
    理事長 丹羽 直樹
    医師紹介ページはこちら
    【資格】
    日本神経学会神経内科専門医・指導医
    日本頭痛学会専門医・指導医
    日本脳卒中学会専門医
    日本内科学会認定内科医
    身体障害者福祉法指定医
    (肢体不自由、平衡機能障害、音声機能・言語機能障害、そしゃく機能障害、膀胱直腸機能障害)

    【略歴】
    1988年3月 千葉大学医学部卒業
    1989年10月 松戸市立病院 救急部
    1994年10月 七沢リハビリテーション病院
    2002年4月 沼津市立病院 神経内科
    2002年11月 長池脳神経内科開設
    2012年11月 横浜脳神経内科開設