筋トレ頭痛の原因と対策
筋トレ頭痛で悩む方が、健康指向やスポーツジムの普及もあって増えています。どうすれば安心してトレーニングに励む事ができるのか、専門医の立場から詳しく解説します。

筋トレ頭痛の原因
1. 片頭痛
片頭痛は脳動脈が拡張して起こります。したがって、運動で体温が上昇し血管が拡がりやすくなります。ズキンズキンと脈に合わせて痛みが生じる特徴があります。
2. 一次性運動時頭痛
一次性運動時頭痛は、激しい運動中または運動後に発生する頭痛です。ズキズキとした拍動性の痛みが特徴です。特に、持続的な運動や筋力を要する活動が引き金となる事が多いとされています。
3. 可逆性脳血管攣縮症候群
雷鳴頭痛と呼ばれる突然で激しい頭痛です。この頭痛は、1分以内にピークに達し、持続時間は約1時間から3時間です。そして、その後も強い頭痛を繰り返す状態となります。
筋トレでも急に負荷が加わる息止め動作により、交感神経系の過剰反応を起こし、脳動脈が収縮して生じます。また、普段血圧が高くない方でも、血圧が上昇する事があります。
当院の経験では、筋トレ頭痛で当院を受診したケースのほとんどが可逆性脳血管攣縮症候群です。したがって、当院では一次性運動時頭痛の多くはこの疾患であると推測します。従来MRI検査による詳しい検討がなされてこなかったため、この病名が付けられていたものと思われます。
4. 椎骨動脈解離
突然の後頭部や首の痛みで発症します。首の後ろに位置する椎骨動脈が傷つき、血液が血管壁に入り込む事によって生じます。椎骨動脈は頚椎(首の部分の背骨)に沿って脳へ向かうため、首に強い負担が掛かる事で血管の壁にひずみが生じ、運動による血圧上昇が加わって発症しやすくなります。また、脳梗塞やくも膜下出血を発症する事があるため、注意が必要です。
5. くも膜下出血
今まで経験した事のないような突然の激しい頭痛で発症します。脳動脈瘤という、血管にできたコブが破裂して生じます。運動により血圧が上がる事で、脳動脈瘤に急な負荷が生じて発症しやすくなります。最悪突然死もあり得る危険な状態であり、直ちに救急病院の受診が必要となります。
筋トレにより起こる変化
筋トレ動作が頭痛を起こすメカニズムには、交感神経系が関与します。

運動量が増加すると、交感神経系が活発となり脳動脈の収縮を起こし、運動後にリバウンドで副交感神経が優位になると脳動脈は拡張します。したがって、元々片頭痛のある方は片頭痛を起こしやすくなります。
しかし、交感神経系の活発状態が強い場合には、脳動脈収縮が極端に強くなり可逆性脳血管攣縮症候群に至ります。
筋トレ頭痛の診断と治療
MRI検査が診断に繋がります。
実際に横浜脳神経内科を受診した症例を提示します。
症例1. 可逆性脳血管攣縮症候群
30代の女性で、20歳頃から時々頭痛がありました。
筋トレ中、急に後頭部の激しい頭痛が出現しました。約20分でいったん頭痛は軽くなり、帰宅しました。しかし、その後も運動する度に頭痛が悪化し、数日が経ちました。何か脳の重大な病気ではないかと心配になり、当院を受診しました。
頭部MRA検査を見たところ、
後大脳動脈が所々で途切れたようになっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。
この疾患では、交感神経系の過剰反応が関係します。1)3)4) つまり、緊張や興奮が一気に頂点に達する動作で誘発されます。
国際頭痛分類第3版に「4.2 一次性運動時頭痛」という分類があります。そして、咳やいきみなどの刺激により突発的に起こる頭痛とされています。Parthらの最近のまとめ2)によると、一次性運動時頭痛は激しい運動により起こる急激な頭痛です。また、脳の重大な病気を除外した上で診断されるとあります。
筋トレ頭痛の多くは可逆性脳血管攣縮症候群であると考えられます。症状は数週間から1ヶ月で自然に改善するとされています。しかし、それまでの間強い頭痛に悩まされる事になり、生活に大きな支障をきたします。
そこで、当院では可逆性脳血管攣縮症候群の診断と治療に力を入れています。まず第一にくも膜下出血など重大な脳の病気を除外し、早期に適切な治療を開始する事が大事です。この方は、血管拡張薬と交感神経遮断薬、鎮痛剤で治療する事となりました。
症例2. 椎骨動脈解離
40代の女性で、10代の頃から片頭痛と診断されていた方です。
筋トレ中、急に後頭部の血管が切れるかのような激しい頭痛が出現。そこで、持っていたトリプタンを飲んだのですが、全く効きませんでした。そして、翌朝になっても痛みは治まらず、当院を受診しました。
頭部MRA検査では、

椎骨動脈という、首から後頭部へ行く血管が変形しており、椎骨動脈解離と診断しました。
この疾患は、最悪くも膜下出血を発症して突然死をきたす事もある危険なものです。そこで、直ちに救急車で血管内治療のできる病院へ搬送していただきました。
筋トレ頭痛の原因の多くは可逆性脳血管攣縮症候群です。しかし、まれにこうした危険な疾患の場合もあります。さらに、椎骨動脈解離の詳しい病態については、専門家の記載5)をご参照ください。
筋トレ頭痛の対策
筋トレ中に頭痛が発生した場合、直ちに運動を中止し、まずは安全な部屋で休む事が大事です。
- ・安静にする
- ・力を入れる時にゆっくりと息を吐き、戻す時に吸うような呼吸をする
- ・運動前後にコップ1杯ずつの水分補給
- ・頚動脈を保冷材や冷たいタオルで冷やしてみる
落ち着いて以上のセルフケアを試みてください。
筋トレ頭痛の受診の目安
以下のような場合は早めに専門医を受診するようお勧めします。
- ・今までにないような強い頭痛
- ・手足のしびれや麻痺がある
- ・言葉が出にくい
- ・意識の障害
- ・セルフケアで改善しない
- ・安静にしても30分以上痛みが続く
- ・翌日になっても改善しない
特に、可逆性脳血管攣縮症候群、椎骨動脈解離、くも膜下出血の場合は、緊急な治療が必要となります。早めに頭痛外来や脳神経内科を受診してください。
Q&A:筋トレ頭痛に関するよくある質問
Q1. 筋トレ中に頭痛が起きたら、すぐに運動をやめたほうがいいですか?
A1. はい。頭痛を感じたら、まずは運動を中止し、安静にしてください。無理に続けると症状が悪化したり、重大な疾患が隠れている場合もあります。
Q2. どんな頭痛なら医療機関を受診すべきですか?
A2. 今まで経験した事のない激しい頭痛、手足のしびれや麻痺、言葉が出にくい、意識障害、安静にしても30分以上改善しない場合は、早めに専門医を受診してください。
Q3. 筋トレ頭痛は予防できますか?
A3. ある程度予防可能です。運動前後の水分補給、十分なウォーミングアップ、息を止めない呼吸法、無理のない負荷設定が効果的です。
Q4. どのような筋トレ種目で頭痛が起きやすいですか?
A4. ベンチプレス、スクワット、懸垂、ダンベルを使ったトレーニングなど、全身に強い力がかかる種目や息を止めやすい動作で頭痛が起こりやすい傾向があります。
Q5. 筋トレ頭痛が頻繁に起こる場合、どうすればよいですか?
A5. 頻繁に頭痛が出る場合は、運動の負荷やフォームを見直し、無理をしない事が大切です。それでも改善しない場合は、頭痛外来や脳神経内科の受診を検討してください。
Q6. 筋トレ頭痛と危険な頭痛の見分け方は?
A6. 筋トレ頭痛は多くが一時的でセルフケアで改善しますが、「突然の激しい痛み」「今までにない痛み」「神経症状(しびれ・麻痺)」があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。
参考文献
- Ducros A. Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Lancet Neurol 2012;11:906-917.
- Parth Upadhyaya, Arathi Nandyala, Jessica Ailani. Primary Exercise Headache. Curr Neurol Neurosci Rep
. 2020 Apr 15;20(5):9. doi: 10.1007/s11910-020-01028-4. - Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The link between migraine, reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56.
- Ducros A, et al. The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016. Apr;56(4):657-73.
- 解離性脳動脈瘤 | 昭和大学病院
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この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。
資格
- 日本神経学会神経内科専門医・指導医
- 日本頭痛学会専門医・指導医
- 日本脳卒中学会専門医
- 日本内科学会認定内科医
- 身体障害者福祉法指定医
(肢体不自由、平衡機能障害、音声機能・言語機能障害、そしゃく機能障害、膀胱直腸機能障害)
略歴
- 1988年3月 千葉大学医学部卒業
- 1989年10月 松戸市立病院 救急部
- 1994年10月 七沢リハビリテーション病院
- 2002年4月 沼津市立病院 神経内科
- 2002年11月 長池脳神経内科開設
- 2012年11月 横浜脳神経内科開設