筋トレ頭痛

筋トレ頭痛の原因と対策

 

筋トレ頭痛

 

1. はじめに

健康意識の高まりとスポーツジムの普及につれて、筋トレ中や運動後に頭痛を感じる人が増えています。

ここでは、筋トレ頭痛の原因・対策・注意すべき症状について解説します。

 

2. 筋トレ頭痛とは?

筋トレで発生する頭痛は、運動中や直後に突然発症し、多くの場合、こめかみや後頭部、首の後ろなどに痛みを感じる事が多いです。また、痛みは運動をやめると徐々に軽くなる傾向がありますが、まれに翌日まで続いたり、繰り返し発生する事もあります。

主に20~50代の男性に多いとされています。ただし、女性や高齢者、子どもでも発症することがあり、年齢や性別を問わず注意が必要です。

 

3. 筋トレ頭痛の主な原因

3-1. 一次性運動時頭痛(労作時頭痛)

激しい運動中または運動後に発生する頭痛です。特に、持続的な運動や筋力を要する活動が引き金となる事が多いとされています。

国際頭痛分類第3版に「4.2 一次性運動時頭痛」という分類があります。そして、咳やいきみなどの刺激により突発的に起こる頭痛とされています。Parthらの最近のまとめ1)によると、一次性運動時頭痛は激しい運動により起こる急激な頭痛です。また、脳の重大な病気を除外した上で診断されるとあります。

ズキズキと脈打つような痛みで、頭全体またはこめかみ、後頭部に感じる事が多いです。発症は突然で、数分から数時間続く場合があります。

あくまで、脳出血やくも膜下出血などの重大な疾患がない場合に診断されます。「今までにない激しい頭痛」「手足のしびれや麻痺」「吐き気や嘔吐を伴う」など、普段と異なる症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

 

3-2. 脱水症状

体内の水分や電解質(ナトリウム・カリウムなど)が不足した状態です。運動や筋トレで大量に汗をかくと、体から水分が失われ、脱水状態による頭痛を引き起こす事があります。

激しい運動や長時間の筋トレ、暑い環境下での運動、充分な水分補給をしていない場合、また飲酒後の運動などで起こりやすいです。子どもや高齢者は特に注意が必要です。のどの渇き、めまい、頭痛、吐き気、だるさ、筋肉のけいれん、尿の色が濃くなるなどの症状が現れます。重度になると意識障害やけいれんなど、命に関わる事もあります。

 

3-3. 酸欠状態

体や脳に充分な酸素が供給されていない状態を指します。脳は特に酸素が必要な臓器であり、酸欠状態になると脳の血管が酸素を取り込もうとして拡張して頭痛を生じます。運動や筋トレ中に呼吸が浅くなったり、激しい動きで酸素消費量が増えたりすると起こりやすくなります。特に、激しい運動や長時間のトレーニング、マスク着用下での運動、高地での運動などで発生しやすいです。また、息を止めて力む動作(いきみ)でも酸欠状態になりやすくなります。

頭痛以外に、めまい、息切れ、動悸、ふらつき、集中力の低下、場合によっては気分不良や意識が遠のく感じなどが現れます。重度の場合は失神することもあります。

 

3-4. 首や肩の筋肉への過剰な負荷

筋トレや運動によって、首や肩の筋肉に必要以上の力がかかった状態を指します。特に重いウェイトを使うトレーニング(ベンチプレス、懸垂、ダンベルスクワットなど)や、フォームが崩れている場合に起こりやすいです。

首や肩の痛みやこり、頭痛、可動域の制限、筋肉の張り、時にしびれを感じる事もあり、後頭部に痛みが出る場合もあります。

 

3-5. 元々ある片頭痛の悪化

片頭痛は脳の血管の拡張によって起こります。したがって、運動による体温の上昇と脳血流量増加により脳血管が拡張しやすくなり、片頭痛が悪化する事があります。

 

3-6. 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)

雷鳴頭痛と呼ばれる突然で激しい頭痛で始まります。この頭痛は、1分以内にピークに達し、持続時間は約1時間から3時間です。そして、その後も強い頭痛を繰り返す状態となります。筋トレでも急に負荷が加わる息止め動作など、急激に血圧が上昇する場面で発症しやすいです。により、脳動脈が収縮して生じます。無酸素運動と交感神経系の過剰反応が誘因となります。また、普段血圧が高くない方でも、血圧が上昇する事があります。

可逆性脳血管攣縮症候群自体は多くの場合、数週間で自然に回復しますが、まれに脳出血や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす事があります。したがって、突然の激しい頭痛が現れた場合は、早急に医療機関で検査を受ける事が大切です。

一次性運動時頭痛は、運動をやめる事で痛みがなくなり、MRIなど画像検査で異常が見られません。これに対して、可逆性脳血管攣縮症候群では運動後も度々頭痛を繰返し、画像検査で脳血管の収縮が捉えられます。

 

3-7. 椎骨動脈解離

突然の片側の後頭部や首の痛みで発症します。首の後ろに位置する椎骨動脈の内膜が傷つき、血液が血管壁に入り込む事によって発生します。また、手足のしびれや麻痺、めまい、視野の異常などを伴う事もあります。内部に血栓ができて脳梗塞を起こしたり、動脈瘤を形成してくも膜下出血を発症する事があるため、注意が必要です。

首に強い負荷がかかった時や、無理な動作・激しい筋トレ・スポーツ(ラグビー、柔道など)などで発症する事があります。

 

3-8. くも膜下出血

今まで経験した事のないような、突然後頭部をバットで殴られたような痛みで発症します。脳動脈瘤という、血管にできたコブが破裂して生じます。運動により血圧が上昇する事がきっかけになりやすいです。最悪突然死もあり得る非常に危険な状態です。

高血圧や動脈硬化、脳動脈瘤を持っている人に多く、運動や筋トレなどで血圧が急上昇したときに発症する事があります。いきみや強い力みがきっかけになることもあります。

 

4. 実際の症例紹介

これらは特殊なケースですが、ご参考のために提示します。

可逆性脳血管攣縮症候群の症例

30代の女性で、20歳頃から時々頭痛がありました。

筋トレ中、急に後頭部の激しい頭痛が出現しました。約20分でいったん頭痛は軽くなり、帰宅しました。しかし、その後も運動する度に頭痛が悪化し、数日が経ちました。何か脳の重大な病気ではないかと心配になり、当院を受診しました。

頭部MRA検査を見たところ、

筋トレ頭痛

 

後大脳動脈が所々で途切れたようになっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。

この疾患では、交感神経系の過剰反応が関係します。2)3)4) つまり、緊張や興奮が一気に頂点に達する動作で誘発されます。

当院では可逆性脳血管攣縮症候群の診断と治療に力を入れています。まず第一にくも膜下出血など重大な脳の病気を除外し、早期に適切な治療を開始する事が大事です。この方は、血管拡張薬と交感神経遮断薬、鎮痛剤で治療する事となりました。

 

椎骨動脈解離の症例

40代の女性で、10代の頃から片頭痛と診断されていた方です。

筋トレ中、急に左の首の強い痛みが出現。そこで、持っていたトリプタンを飲んだのですが、全く効きませんでした。そして、翌朝になっても痛みは治まりませんでした。

その後6日が経ち、痛みは治まりませんでした。今までこれ程長く痛みはなかったため心配になり、当院を受診しました。

頭部MRA検査では、

筋トレ頭痛

 

左の椎骨動脈という、首から後頭部へ行く血管が変形しており、椎骨動脈解離と診断しました。

この疾患は、最悪くも膜下出血を発症して突然死をきたす事もある危険なものです。そこで、直ちに救急車で血管内治療のできる病院へ搬送していただきました。さらに、椎骨動脈解離の詳しい病態については、専門家の記載5)をご参照ください。

 

5. 危険な症状と医療機関受診の目安

筋トレや運動中に頭痛が起こった場合でも、多くは一時的で心配のいらないケースがほとんどです。しかし、以下のような「危険な症状」がある場合は、重大な疾患が隠れている可能性があります。自己判断せず、速やかに医療機関を受診しましょう。

すぐに医療機関を受診すべき危険な症状

  • 1. 今まで経験したことのない突然の激しい頭痛。
  • 2. 頭痛がどんどん強くなる、または長引く(数日続く・翌日も治らない)。
  • 3. 吐き気・嘔吐を伴う。
  • 4. 手足のしびれ、麻痺、動かしづらさがある。
  • 5. ろれつが回らない、言葉が出にくい。
  • 6. 意識障害、けいれん、めまい、視野の異常などを伴う。
  • 7. 50歳を過ぎて初めて経験する頭痛 普段の頭痛とパターンや痛みの程度、持続時間が明らかに異なる。

 

受診のポイント

これらの症状が1つでも当てはまる場合は、できるだけ早くMRIなどの検査ができる医療機関を受診してください。特に「突然の激しい頭痛」は、くも膜下出血や血管の重大なトラブルのサインであることが多く、緊急対応が必要です。

 

6. よくある質問(Q&A)

Q1. 筋トレ頭痛はなぜ起こる?
A1. 筋トレ中の頭痛は、激しい運動や息を止める動作による血圧の急上昇、血管の収縮・拡張、脱水、酸素不足、首や肩の筋肉への過剰な負荷などが主な原因です。もともと片頭痛持ちの人は運動により悪化する事もあります。

Q2. どんな時に筋トレ頭痛が起こりやすい?
A2. 以下が考えられます。

  • ・強い負荷のトレーニングやウェイトリフティング。
  • ・いきみや息を止める動作。
  • ・水分補給が不十分な時。
  • ・準備運動やストレッチが足りない時。
  • ・暑い環境やマスク着用下での運動。

(例)

  • ・「ベンチプレスで最後の1回を無理に上げようとしたときに頭痛が発生」
  • ・「クーラーの効いていない部屋で長時間トレーニングしていたら、頭がズキズキし始めた」

 

Q3. 危険な頭痛の見分け方は?
A3. 以下がポイントです。

  • ・今までにない突然の激しい頭痛。
  • ・頭痛がどんどん強くなる、長引く。
  • ・吐き気・嘔吐、手足のしびれや麻痺、意識障害、ろれつが回らない、視野異常などを伴う場合。

このような症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。

Q4. 筋トレ頭痛を予防するには?
A4. 以下が推奨されます。

  • ・運動前のウォームアップやストレッチを充分に行う。
  • ・無理な負荷や急激な動作を避ける。
  • ・こまめな水分補給を心がける。
  • ・運動中は呼吸を止めず、リズムよく呼吸する。
  • ・痛みや違和感を感じたらすぐに運動を中止する。

(例)

  • ・「運動中に頭痛が出たら、すぐにダンベルを置いて休憩スペースに移動しましょう」
  • ・「冷やす際は、氷嚢や冷たいペットボトルをタオルで包んで後頭部に当てると良い」

 

Q5. 筋トレ頭痛が起きた時の対処法は?
A5. 以下が推奨されます。

  • ・すぐに運動を中止し、安静にする。
  • ・涼しい場所で休み、水分を補給する。
  • ・痛みが強い場合は患部を冷やす。
  • ・症状が改善しない、または危険な症状があれば早めに医療機関を受診する。

 

Q6. 頻繁に筋トレ頭痛が起こる場合は?
A6. 頻繁に頭痛が起こる場合や、痛みが強い場合は、自己判断せずに医療機関で検査・相談を受けましょう。重大な病気が隠れていないか確認する事が大切です。

 

7. まとめ

筋トレ頭痛の多くは心配ありませんが、危険な症状がある場合や少しでも不安を感じた場合は、自己判断せず早めに医療機関で診察を受けましょう。命に関わる病気の早期発見・早期治療につながります。

 

文献

 

(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹

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