筋トレ頭痛

筋トレ頭痛の原因と対策について説明します。

筋トレ頭痛

筋トレ頭痛の原因

以下の可能性があります。

1. 一次性運動時頭痛

一次性運動時頭痛は、激しい運動中または運動後に発生する頭痛です。ズキズキとした拍動性の痛みが特徴です。特に、持続的な運動や筋力を要する活動が引き金となる事が多いです。

2. 過剰な筋肉の負担

首や肩の筋肉への過剰な負荷がかかると、筋肉が疲労し、頭痛を生じる事があります。特に、腕立て伏せやベンチプレスなどの体をうつ伏せや仰向けにする動作では、頭痛が生じやすいです。

3. 脱水症状

運動中の水分補給が不充分だと脱水が進行し、これが頭痛の原因となる事があります。特に、激しい運動を行う際は、充分な水分を摂ることが重要です。

4. 酸欠状態

高強度のトレーニングでは、呼吸が浅くなり、酸欠状態に陥る事があります。これも頭痛の引き金となる可能性があります。

5. 血圧の急上昇

筋トレ中に血圧が急上昇する事があり、頭痛を引き起こす場合があります。

6. 可逆性脳血管攣縮症候群

雷鳴頭痛と呼ばれる突然で激しい頭痛です。この頭痛は、1分以内にピークに達し、持続時間は約1時間から3時間です。交感神経系が過剰反応を起こす事で、脳血管が収縮して生じます

7. 椎骨動脈解離

突然の激しい後頭部の痛みで発症します。首の後ろに位置する椎骨動脈の内膜が傷つき、血液が血管壁に入り込む事によって発生します。また、脳梗塞やくも膜下出血を発症する事があるため、注意が必要です。

 

筋トレ頭痛の症例1

30代の女性で、20歳頃から時々頭痛がありました。

筋トレ中、急に後頭部の激しい頭痛が出現しました。約20分でいったん頭痛は軽くなり、帰宅しました。しかし、その後も運動する度に頭痛が悪化し、数日が経ちました。何か脳の重大な病気ではないかと心配になり、当院を受診しました。

頭部MRA検査を見たところ、

筋トレ頭痛

後大脳動脈が所々で途切れたようになっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。

この疾患では、交感神経系の過剰反応が関係します。1)3)4) つまり、緊張や興奮が一気に頂点に達する動作で誘発されます。

国際頭痛分類第3版に「4.2 一次性運動時頭痛」という分類があります。そして、咳やいきみなどの刺激により突発的に起こる頭痛とされています。Parthらの最近のまとめ2)によると、一次性運動時頭痛は激しい運動により起こる急激な頭痛です。また、脳の重大な病気を除外した上で診断されるとあります。

筋トレ頭痛の多くは可逆性脳血管攣縮症候群であると考えられます。症状は数週間から1ヶ月で自然に改善するとされています。しかし、それまでの間強い頭痛に悩まされる事になり、生活に大きな支障をきたします。

そこで、当院では可逆性脳血管攣縮症候群の診断と治療に力を入れています。まず第一にくも膜下出血など重大な脳の病気を除外し、早期に適切な治療を開始する事が大事です。 

 

筋トレ頭痛の症例2

40代の女性で、10代の頃から片頭痛と診断されていた方です。

筋トレ中、急に後頭部の血管が切れるかのような激しい頭痛が出現。そこで、持っていたトリプタンを飲んだのですが、全く効きませんでした。そして、翌朝になっても痛みは治まりませんでした。

その後6日が経ち、頭痛は治まりませんでした。今までこれ程長く頭痛はなかったため心配になり、当院を受診しました。

頭部MRA検査では、

筋トレ頭痛

椎骨動脈という、首から後頭部へ行く血管が変形しており、椎骨動脈解離と診断しました。

この疾患は、最悪くも膜下出血を発症して突然死をきたす事もある危険なものです。そこで、直ちに救急車で血管内治療のできる病院へ搬送していただきました。

筋トレ頭痛の原因の多くは可逆性脳血管攣縮症候群です。しかし、まれにこうした危険な疾患の場合もあります。さらに、椎骨動脈解離の詳しい病態については、専門家の記載5)をご参照ください。

 

筋トレ頭痛の対策

筋トレ中に頭痛が発生した場合の対策を示します。

1. 直ちに運動を中止する

頭痛を感じたら、すぐに運動を中止する事が重要です。そのまま続けると症状が悪化する恐れがあるため、注意が必要です。

2. 頭を冷やす

運動を中止した後は、氷などで頭を冷やし、安静にする事が推奨されます。つまり、冷やす事で血管の収縮を促し、痛みを和らげることが期待できます。

3. 水分補給

運動中や休憩中に積極的に水分を摂取し、脱水を防ぎましょう。特に、スポーツドリンクやミネラルウォーターがお勧めです。

4. ウォーミングアップ

トレーニング前に充分なストレッチやウォーミングアップを行う事で、筋肉の緊張をほぐします。そして、頭痛のリスクを減少させる事ができます。

5. 負荷の調整

筋トレ時の負荷を軽くし、また、体調に応じた運動メニューを組む事も重要です。

6. 医療機関の受診

運動時の頭痛が頻繁に発生する場合や、強い痛みが続く場合は、早めに専門医を受診した方が良いでしょう。

特に、以下の状態が疑われる場合には注意が必要です。

可逆性脳血管攣縮症候群

この疾患では、息を止めて瞬間的に力を入れる動作が引き金となります。そこで、筋トレの合間にゆっくりと息を吸って吐くようにするのが良いでしょう。無酸素運動の合間に有酸素運動を取り入れるのがコツです。

椎骨動脈解離

椎骨動脈は、首の骨の両側から脳の中へ上がっていきます。したがって、首の骨を無理な力で曲げたり、首に強い負荷のかかる運動は危険です。また、ラグビーや柔道など激しいスポーツでも発症する事があります。 もし、運動中に首や後頭部に強い痛みを感じた場合には、直ちに中断して医療機関を受診してください。

可逆性脳血管攣縮症候群椎骨動脈解離の場合は、緊急な治療が必要となります。横浜脳神経内科では、日本頭痛学会専門医が診療を行っています。心配な方は、ご相談ください。

 

文献

  1. Ducros A. Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Lancet Neurol 2012;11:906-917.
  2. Parth Upadhyaya, Arathi Nandyala, Jessica Ailani. Primary Exercise Headache. Curr Neurol Neurosci Rep
    . 2020 Apr 15;20(5):9. doi: 10.1007/s11910-020-01028-4.
  3. Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The link between migraine, reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56.
  4. Ducros A, et al. The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016. Apr;56(4):657-73.
  5. 解離性脳動脈瘤 | 昭和大学病院

 

(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹

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