片頭痛の薬

現段階で使われている片頭痛の治療薬を、急性期治療薬(痛い時に服用する薬)と予防薬(片頭痛の回数が多い場合に服用する薬)とに分けて説明します。

【急性期治療薬】

片頭痛では、脳の血管が収縮した後に拡張して痛みを起こします。

この血管の拡張した痛みを止めるために、血管を縮めて元に戻す薬があります。

①トリプタン製剤

片頭痛急性期治療薬の主流です。

片頭痛のしくみ で述べたセロトニンと同様の働きを持つ、脳の血管を縮ませる作用のある薬です。

トリプタン製剤には以下の5種類があります。

トリプタンの薬物動態

(引用文献)

監修:日本神経学会・日本頭痛学会編集:慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会. 複数のトリプタンをどう使い分けるか. 慢性頭痛の診療ガイドライン2021; 162.

「最高血中濃度到達時間」が短いほど、効くまでの時間が速いという事になります。最短はスマトリプタンの自己注射薬で、すぐに痛みを取りたい時に使います。

吐き気で錠剤が飲めないような場合には、スマトリプタン点鼻液が良いでしょう。錠剤のスマトリプタンよりも速く効きます。

ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタンには、口腔内速溶錠や口腔内崩壊錠という形があります。口の中で溶けて「水なしで飲める」タイプとされています。しかし水なしで飲んだ場合、喉の奥や食道に張り付いてしまうので、かえって効くまでに時間がかかってしまう事もあります。エレトリプタン口腔内崩壊錠のように、データ上も通常の錠剤よりも時間がかかっている物もあります。実際には、きちんと充分な水で飲んだ方が良いでしょう。

ナラトリプタンは効くまでに時間がかかりますが、「半減期が長い」ので効き目が長持ちするというメリットがあります。他のトリプタンでは副作用(喉や首の締め付け感や吐き気など)が出る場合や、いったん治まってもまたすぐ頭痛が起きる場合に使います。効くまでに時間がかかるので、きざしを感じたらすぐに飲むのが良いでしょう。

②エルゴタミン製剤

古くからある薬です。
現在では主にトリプタンが使われていますが、だからといって意味がないわけではありません。トリプタンが効かない場合に試してみる価値があります。
吐き気が出やすいという副作用があるので、吐き気止めの薬と同時に飲んでもらうようにしています。時間が経ってからだと効きにくいので、早めに飲む必要があります。

③ラスミジタン

2022年6月に国内販売が開始された新しい薬です。
従来のトリプタン系とは少々異なる作用の急性期治療薬1)で、欧米での臨床試験2)3)ではすでに効果が証明されています。
めまい、眠気、異常感覚などの副作用があり、新しい薬だけに当院では慎重に処方しています。

特効薬と言われているいるトリプタンですが、誰にでも効くとは限りません。また、同じ人でもいつも効くわけではありません。
「今まで効いていたはずなのに効かなくなった」という場合や「かえって痛みが強くなった」という場合があります。この時に「頭痛の状態がどう変化したのか」を考える事が必要です。

【予防薬】

片頭痛は月に1〜2回、多い時で週に1回位の頻度で繰り返し、1回の痛みは4〜72時間で治まるとされています。

これ以上頻繁に頭痛が起きる場合、あるいは痛み自体が強くて生活に支障をきたしているような場合には、回数を減らす事や痛みの程度を弱めるための予防薬を検討した方が良いでしょう。

片頭痛の予防薬です。

片頭痛の予防薬

Group1(有効)からGroup5(無効)まで、
「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」から引用しました。

抗てんかん薬

有効とされる抗てんかん薬は

バルプロ酸

バルプロ酸(デパケン、セレニカ)

トピラマート

トピラマート(トピナ)

の2つです。脳の過敏状態を抑えるために使われます。

β遮断薬

β遮断薬は元々は交感神経を弱めて血圧を下げるために作られました。

プロプラノロール

プロプラノロール(インデラル)

の効果が証明されています。

抗うつ薬

抗うつ薬として

アミトリプチリン

アミトリプチリン(トリプタノール)

が使われますが、眠気やのどが渇く副作用があります。

カルシウム拮抗薬

ロメリジン

ロメリジン(ミグシス、テラナス)

ベラパミル

ベラパミル(ワソラン)

は最初に血管が縮むのを抑える事で予防する薬です。

ARB/ACE阻害薬

ARBは元々は高血圧の薬ですが、

カンデサルタン

カンデサルタン(ブロプレス)

については片頭痛予防効果が示されています。

頭痛の状態が変化するとともに予防薬の効果も変わるので、薬が効かなくなった時には患者さんの状態を正確にとらえて処方を見直す必要があります。

文献

  1. David L Nelson 1 , Lee A Phebus, Kirk W Johnson, David B Wainscott, Marlene L Cohen, David O Calligaro, Yao-Chang Xu. Preclinical pharmacological profile of the selective 5-HT1F receptor agonist lasmiditan. Cephalalgia 2010 Oct;30(10):1159-69.
  2. Bernice Kuca, Stephen D Silberstein, Linda Wietecha, Paul H Berg, Gregory Dozier, Richard B Lipton, COL MIG-301 Study Group. Lasmiditan is an effective acute treatment for migraine: A phase 3 randomized study. Neurology 2018 Dec 11;91(24):e2222-e2232.
  3. Peter J Goadsby, Linda A Wietecha, Ellen B Dennehy, Bernice Kuca, Michael G Case, Sheena K Aurora, Charly Gaul. Phase 3 randomized, placebo-controlled, double-blind study of lasmiditan for acute treatment of migraine. Brain 2019 Jul 1;142(7):1894-1904.

(文責:理事長 丹羽 直樹

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