可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)とは?症状・原因・診断・治療まで徹底解説
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と診断された方の不安や誤解を解消するために、この記事では、RCVSの症状や原因、診断、治療と経過、日常生活での注意点まで、専門医の視点から分かりやすく解説します。
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可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)とは
可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome:RCVS)は、脳の血管が一時的に強く収縮する事で、主に突然の激しい頭痛を引き起こします。「可逆性」とは、発症から数週間~数ヶ月で血管の異常が自然に元に戻る事を意味します。
- ・発症年齢は20~50代が中心ですが、男女問わず発症します。
- ・女性に多い傾向があります。
- ・まれに小児や高齢者でも発症する事があります。
くも膜下出血など命に関わる頭痛とも症状が似ているため、早期の正確な診断が重要です。
主な症状
RCVSのもっとも特徴的な症状は、雷鳴頭痛と表現される「頭の中で突然雷が鳴ったような激しい頭痛」で、数秒から1分以内にピークに達します。また、頭痛は1~3時間ほど続き、1週間~数週間の間に何度も繰り返すのが特徴です。
- ・後頭部から頭全体の強い痛み(両側性が多い)
- ・片頭痛と同等の吐き気や嘔吐、光や音への過敏、閃輝暗点
- ・言葉が出にくい、手足のしびれや麻痺、けいれん発作などの神経症状
- ・発症1週間以内では、まれに脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの合併症
片頭痛と似た症状が見られる事も多く、普段の頭痛と違うと感じた場合は注意が必要です。
原因・誘因
RCVSの原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような「きっかけ(誘因)」が知られています。
- ・入浴やシャワーを浴びた後
- ・排便・排尿、性行為、運動、筋トレなど体に力が入る動作
- ・咳やくしゃみ、大声を出す、感情の高ぶり
- ・妊娠・出産、女性ホルモンの変動
- ・一部の薬剤(セロトニン作動薬、免疫抑制剤など)
- ・強いストレスや疲労
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交感神経の過剰な反応や脳血管内皮細胞の機能障害、酸化ストレスなどが関与していると考えられています。片頭痛との関連も指摘されており、既往歴がある方は注意が必要です。
診断の流れ・検査
突然の激しい頭痛があれば、まずは早めに医療機関を受診しましょう。診断のためには、以下のような検査が行われます。
- ・MRA(脳血管のMRI検査):脳血管の狭窄や拡張を調べます。
- ・3D-CTA(CTによる血管撮影):より詳細な血管の形態を確認します。
- ・脳血管造影:必要に応じてカテーテル検査を行います。
RCVSでは「多発性分節性狭窄や数珠状所見」が特徴的ですが、発症初期は画像に異常が出ない事も多く、繰り返し検査が必要な事もあります。 また、くも膜下出血や動脈解離など命に関わる疾患との鑑別も非常に重要です。
当院でのMRI画像検査
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このように複数の箇所で脳血管が狭くなる所見(多発性分節性狭窄)が特徴です。
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約1%の例では、このように脳梗塞を生じる事もあります。
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また、脳の表面にくも膜下出血を合併する事もあります。
治療と経過
RCVSの治療は、まず誘因となる行動や薬剤を中止し、安静を保つ事が基本です。薬物治療としては、以下が用いられます。
- ・血管の収縮を和らげる薬剤:カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ニカルジピンなど)
- ・交感神経の過剰反応を和らげる薬剤:交感神経遮断薬(プロプラノロール)
- ・脳内で痛みの感受性を抑える薬剤:抗てんかん薬(バルプロ酸)
- ・痛みをを和らげる薬剤:鎮痛薬(インドメタシン、アセメタシンなど)
実際の当院での症例報告
症例1:入浴で発症した症例
元々片頭痛持ちの30代女性です。
入浴中、急に「バチン」と頭の中で何かが弾けるような激痛が走りました。慌てて浴槽から出て、あまりの痛みで床にうずくまってしまいました。這うように浴室から出て、30分位横になっていると、いったん痛みは軽くなりました。
翌朝、シャワーを浴びたところ、やはり同じような頭全体に響く痛みが出現しました。今までの片頭痛とは違うと感じ、近くの脳神経外科を受診しました。頭部MRI、MRA検査を受けたものの、異常は見られませんでした。
翌々日、今度は恐る恐るぬるい温度のお湯を体にかけました。すると、やはり激しい頭痛を生じたため、すぐに浴室から出ました。心配になり、横浜脳神経内科を受診しました。
頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。
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後大脳動脈という後頭部の血管が所々細くなっており(数珠状変化)、RCVSと診断しました。初回のMRA検査では異常が見られない事もありますが、症状が続く場合は再度検査を行う事が重要です。実際に再検査で特徴的な血管の攣縮が確認され、診断につながりました。
症例2:排便で発症した症例
元々片頭痛のある50代女性で、慢性的な便秘がありました。
排便の際、トイレでいきんだところ、突然後頭部を殴られたような激しい痛みが走りました。さらに、嘔吐もしました。鎮痛剤を飲んでいったん頭痛は軽くなったものの、完全には治まりませんでした。
翌朝排便後に再び同様の激しい頭痛が出現し、今度は鎮痛剤を飲んでも効きませんでした。そこで、何か脳の病気ではないかと心配になり、横浜脳神経内科を受診しました。
頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。
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至る所で脳血管がくびれており、比較的太い血管が収縮している状態が見られました。この多発性分節性狭窄の所見から、RCVSと診断しました。
多くの場合、発症から1~3ヶ月で症状や血管の異常は自然に回復します。ただし、まれに重い後遺症が残る事もあるため、専門医の指導のもとで経過を見る事が大切です。
日常生活での注意点・予防策
RCVSの再発や悪化を防ぐためには、日常生活での注意も重要です。
- ・ストレスを溜めず、リラックスできる時間を作る
- ・無理な力みや過度な運動を避ける
- ・誘因となった行動や薬剤を医師と相談しながら見直す
- ・普段と違う激しい頭痛を感じたら、すぐに専門医を受診する
生活習慣を整える事で、発症や再発リスクを減らす事ができます。
RCVSと片頭痛の関係
RCVSは片頭痛との関連が強い事が分かっています。 もともと片頭痛がある方がRCVSを発症するケースや、RCVS発症後に片頭痛が持続する場合もあります。両者は症状が似ている部分もありますが、RCVSは「突然の激しい頭痛が繰り返す」「画像検査で血管の異常が見られる」などの違いがあります。片頭痛との違いに注意し、自己判断せずに専門医の診断を受けましょう。
当院の見解
当院を受診した可逆性RCVSの87.0%が、元々片頭痛のある方です。
国際頭痛分類第3版では、「6.7.3.3 可逆性脳血管攣縮症候群の既往による持続性頭痛」として分類されています。これは慢性片頭痛に移行したものと考えられます。Yu-Hsiangらの論文1)でも、発症後に約半数の患者が片頭痛をきたすようになったと述べています。
Jérômeらのレビュー2)では、RCVSと片頭痛とは、脳血管壁の変化を起こす共通要因が存在すると推測しています。

片頭痛では、脳の血管が収縮した後に拡張して痛みを起こします。RCVSはこの収縮現象が過剰になった状態とも考えられます。
当院では、RCVSは片頭痛から移行した状態と認識しています。つまり、様々な病態を生じる片頭痛症候群の一局面を見ているものと推測します。
よくある不安と誤解(Q&A)
Q1. 脳の病気=一生治らないのでは?
A1. RCVSは“可逆性”という名前の通り、発症後1~3ヶ月以内にほとんどの場合で自然に回復します。脳の血管が一時的に収縮することで症状が出ますが、多くは元通りに戻るのが特徴です。
Q2. くも膜下出血など脳卒中と同じ位危険な病気なのか?
A2. RCVSは、くも膜下出血など命に関わる疾患と症状が似ているため心配されますが、適切に診断・管理されれば、重篤な合併症を起こすケースはまれです。多くの患者さんは後遺症なく日常生活に戻れます。
Q3. 再発したり、長期間苦しむ事があるの?
A3. 基本的にRCVSは一度発症すると繰り返す事は少なく、再発もまれです。ただし、誘因となった行動や薬剤の使用を再び行うと再発の可能性があるため、医師の指導のもとで生活を見直す事が大切です。
Q4. 家族や身近な人も発症するのか?
A4. 現時点で家族内発症や遺伝性はほとんど報告されていません。ご本人の体質や誘因が主な要因です。
実際の経過・患者さんのリアルなイメージ
- ・発症時は突然の激しい頭痛に驚き、不安や恐怖を感じる方が多いです。
- ・医療機関で検査を受け、RCVSと診断されるまでに時間がかかる場合もありますが、診断がつけば多くのケースで安静や薬物治療によって症状は徐々に改善します。
- ・発症から1~2週間は頭痛が繰り返し起こる事がありますが、徐々に頻度や痛みが軽くなっていきます。
- ・1~3ヶ月でほとんどの方が普段通りの生活に戻れます。重い後遺症が残る事は非常にまれです。
- ・「また同じような頭痛が来たらどうしよう」と不安になる方もいますが、再発はまれで、日常生活の工夫や医師のフォローで安心して過ごせます。
まとめ
RCVSは突然の激しい頭痛で発症します。怖い病名に感じるかもしれませんが、多くの場合は自然に回復し、元の生活に戻る事ができます。症状や不安が強い時は、遠慮せず医療スタッフに相談してください。ご自身やご家族だけで抱え込まず、正しい知識とサポートで安心して治療に臨みましょう。
文献
- 1)Yu-Hsiang Ling, Yen-Feng Wang, Jiing-Feng Lirng, Jong-Ling Fuh, Shuu-Jiun Wang, Shih-Pin Chen. Post-reversible cerebral vasoconstriction syndrome headache. J Headache Pain. 2021 Mar 25;22(1):14
- 2)Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The link between migraine, reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56. doi: 10.1111/head.12798. Epub 2016 Mar 26.
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この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。
資格
- 日本神経学会神経内科専門医・指導医
- 日本頭痛学会専門医・指導医
- 日本脳卒中学会専門医
- 日本内科学会認定内科医
- 身体障害者福祉法指定医
(肢体不自由、平衡機能障害、音声機能・言語機能障害、そしゃく機能障害、膀胱直腸機能障害)
略歴
- 1988年3月 千葉大学医学部卒業
- 1989年10月 松戸市立病院 救急部
- 1994年10月 七沢リハビリテーション病院
- 2002年4月 沼津市立病院 神経内科
- 2002年11月 長池脳神経内科開設
- 2012年11月 横浜脳神経内科開設
