頭を下げると痛い頭痛の原因と対策|セルフチェックも解説
「頭を下げると痛い」頭痛は、日常のささいな動作で強い痛みを感じる事が多く、不安に思う方も少なくありません。この記事では、主な原因からセルフチェック方法、受診の目安、セルフケアまで分かりやすく解説します。
頭を下げると痛い頭痛の主な原因
片頭痛
片頭痛は脳の血管が拡張する事で起こります。頭を下げると脳への血流が増え、血管の拡張が助長されて痛みが強くなるのが特徴です。ズキンズキンとした脈打つ痛みや、吐き気、光や音に敏感になる症状を伴う事が多いです。
群発頭痛
片側の目の奥のえぐられるような強い痛みで、痛みと同じ側の涙、目の充血、まぶたの腫れ、鼻水、鼻詰まり、発汗などを伴います。片頭痛と同様、内頚動脈や眼動脈の血管拡張で起こります。
片頭痛と群発頭痛の対策
いずれも血管を冷やす事で血管が縮んで痛みが軽くなります。逆に入浴や運動など体温が上がる動作で血管が拡張して痛みが強くなります。そこで、頭痛の起きている側の首の部分を氷や保冷材などで冷やすと効果的です。痛みの部分を冷やしても、下に頭蓋骨があるため血管には届きにくいです。
脳の血管の入口は主に頚動脈という首の部分の血管です。痛みが左側であれば左側の頚動脈、右側であれば右側の頚動脈を冷やすとよいでしょう。なお、片頭痛は必ずしも片側とは限らないので、両側が痛ければ両側を冷やしてみてください。
冷やしてもだめな場合は、血管収縮薬であるトリプタン製剤などを用います。
副鼻腔炎(蓄膿症)
副鼻腔炎では、鼻の奥にある副鼻腔に膿が溜まり、頭を下げた時にその圧力が変化して神経を刺激し、痛みが強くなります。風邪や花粉症の後に続く頭痛、鼻づまりや顔の重さを伴う場合は要注意です。
痛む場所:目の奥、こめかみ、頬など
痛みの特徴:鈍い痛み、頭を下げると悪化
他の症状:鼻水、鼻づまり、発熱
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
脳の血管が収縮する事で突然の激しい頭痛(雷鳴頭痛)で発症します。入浴、排便・排尿、咳やくしゃみ、大声、興奮、性行為、筋トレ、薬物など何らかの誘因があり、その後も断続的に頭痛を繰り返します。また、まれに脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などを合併する事もあります。
当院での実際の症例報告
症例1
20代後半の女性です。風邪をひいて喉の痛みと咳が1週間続いていましたが、その後頭痛が続くようになりました。目の奥から頭部全体にわたる鈍い痛みでした。
床に落とした物を取ろうとして頭を下にすると、痛みが強くなりました。風邪の症状はすでになくなっているのに、頭痛が続くのは変だと感じて横浜脳神経内科を受診しました。
MRI検査を行っところ、
蝶形骨洞という場所に感染を起こして膿が貯まっている状態で、急性副鼻腔炎(蝶形骨洞炎)と診断しました。
顔面の骨の裏側には副鼻腔という空洞が拡がっており、鼻腔(鼻の穴)と細い穴でつながっています。風邪や花粉症で粘膜の炎症が起きると、この細い穴がふさがり、内部に細菌が繁殖して膿が貯まった状態が急性副鼻腔炎です。頭を下げると、副鼻腔内部の圧力が上昇して頭痛が強くなります。1)
この症例のような蝶形骨洞の副鼻腔炎は奥深い場所のため、レントゲン検査では分かりにくく、MRI検査で初めて診断が付く事があります。
重症の急性副鼻腔炎では、細菌感染が頭蓋骨内部まで及んで命に関わる場合もあるので注意が必要です。
症例2
症例1とは違い、副鼻腔炎によって脳血管の変化を起こす場合もあります。30代後半の女性で、元々片頭痛がありました。風邪をひいた後、鼻水と咳が3日間続いていましたが、その後から後頭部を中心とした激しい痛みが続くようになりました。咳をすると、ますます痛みは強くなりました。
風邪の頭痛にしてはおかしいと思い、横浜脳神経内科を受診しました。
MRI検査では、
篩骨洞に感染を起こしており、副鼻腔炎の状態でした。しかし、副鼻腔炎としてはきわめて軽い状態で、頭痛を生じる程ではありません。また、痛みの場所も副鼻腔炎の部位と一致していません。
MRA検査で脳の血管を見たところ、
断続的に血管が細くなっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。可逆性脳血管攣縮症候群の発症には、炎症性サイトカイン2)という物質が関係しています。この場合、細菌を攻撃するために作られた炎症性サイトカインが脳血管壁の変化を生じたものと考えられます。
セルフチェックリスト
・頭を下げる・おじぎ・前かがみで痛みが増す
・鼻水や鼻づまり、風邪症状が続いている
・風邪の後、頭痛が長引いている
・片側または両側のこめかみや目の奥がズキズキ痛む
・吐き気や光・音への過敏がある
・鎮痛剤で改善しない、または繰り返す
・初めて経験する強い頭痛
今すぐできる対処法
・片頭痛の場合:痛い側の首(頚動脈付近)を冷やす
・副鼻腔炎の場合:無理に頭を下げず、安静を心がける
・市販薬で改善しない場合は早めに医療機関へ
※冷やしても改善しない、強い痛みや意識障害・麻痺などを伴う場合は、すぐに受診してください。
受診の目安と注意点
- ・初めての激しい頭痛
- ・発熱、意識障害、しびれ、けいれんを伴う
- ・痛みがどんどん強くなる・長引く
- ・市販薬で改善しない
※これらの場合は、頭痛外来や脳神経内科などの専門医を早めに受診しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 頭を下げた時だけ痛いのはなぜですか?
A1. 頭を下げると血流や副鼻腔内の圧力が変化し、神経や血管が刺激されて痛みが強くなる事があります。片頭痛や副鼻腔炎(蓄膿症)などが主な原因です。
Q2. どんな症状があるとすぐに病院に行くべきですか?
A2. 次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- ・初めて経験する激しい頭痛
- ・意識がもうろうとする、しびれや麻痺がある
- ・発熱やけいれん、吐き気・嘔吐が続く
- ・痛みがどんどん強くなる、長引く
Q3. 市販薬で治る頭痛と治らない頭痛の違いは?
A3. 一時的な頭痛は市販薬で和らぐ事もありますが、片頭痛や副鼻腔炎、重い病気が隠れている場合は薬が効かない事もあります。市販薬で改善しない・繰り返す場合は、早めに専門医を受診しましょう。
Q4. 頭を下げると痛い頭痛は自分で治せますか?
A4. 軽い片頭痛や副鼻腔炎の初期であれば、冷やしたり安静にする事で症状が軽くなる場合もあります。ただし、症状が強い・長引く場合や危険な症状があれば、必ず医療機関へ相談してください。
Q5. 予防する方法はありますか?
A5. 規則正しい生活、充分な睡眠、ストレスのコントロール、風邪やアレルギーの予防が大切です。片頭痛の場合は、強い光や音、睡眠不足など自分の誘因を避ける事も予防につながります。
まとめ
頭を下げると痛い頭痛には、片頭痛や副鼻腔炎など複数の原因があります。そこで、セルフチェックと適切な対処を心がけ、気になる場合は専門医に相談してください。
参考
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この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。
資格
- 日本神経学会神経内科専門医・指導医
- 日本頭痛学会専門医・指導医
- 日本脳卒中学会専門医
- 日本内科学会認定内科医
- 身体障害者福祉法指定医
(肢体不自由、平衡機能障害、音声機能・言語機能障害、そしゃく機能障害、膀胱直腸機能障害)
略歴
- 1988年3月 千葉大学医学部卒業
- 1989年10月 松戸市立病院 救急部
- 1994年10月 七沢リハビリテーション病院
- 2002年4月 沼津市立病院 神経内科
- 2002年11月 長池脳神経内科開設
- 2012年11月 横浜脳神経内科開設






