後頭部の急な頭痛

後頭部の急な頭痛が起きた時、重大な脳の病気である場合があります。

後頭部の急な頭痛

症例1

40代後半の男性です。20代の頃から片頭痛があり、頭痛のたびに市販の痛み止めを飲んでいました。
ご本人が言うには、「20○○年○月○日14時頃、突然後頭部をバットで殴られたような激しい痛みが出現、今までの頭痛とはかなり違う」との事でした。翌日には痛みは軽くなり、片頭痛だったのかなと思いながらも、会社へは行っていました。最初の頭痛から10日後、また激しい頭痛に襲われたため横浜脳神経内科を受診しました。

MRI検査をしたところ、

後頭部の急な頭痛

くも膜下出血でした。白くなっている部分は出血した血液です。
MRA(血管の撮影)を見ると、

後頭部の急な頭痛

右側の内頚動脈という血管に脳動脈瘤(血管のコブ)ができています。これが破裂して出血したわけです。

まだ破裂していない脳動脈瘤は、頭痛などの症状は出ない事がほとんどで、出血して初めて激しい頭痛を生じます。偶然MRI検査で見つかる事もあります。

この症例の場合、最初の短期間の頭痛は何だったのでしょうか?
おそらく、minor leakといわれる「動脈瘤からジワッと血液が漏れ出した状態」だった。つまり、1回目の頭痛は本格的に破裂する前の、前兆の頭痛だった可能性があります。

くも膜下出血の死亡率は40-50%で、突然死もあり得ます。救急車で運ばれる場合がほとんどですが、頭痛外来では、この方のように自力で歩いて受診する場合もあります。
上で書いた経過の中で、重要なキーワードがあります。
それは、
「20○○年○月○日14時頃、突然後頭部をバットで殴られたような激しい痛みが出現、今までの頭痛とはかなり違う」
という部分です。
このように、日時をはっきり特定できるほど突然に起こった頭痛で、しかも今までに経験したことのないような頭痛では、くも膜下出血が強く疑われます。

症例2

20代前半の男性で、高校時代からラグビーの選手をしていた方です。練習の後、後頭部の急な頭痛が出現し、その場でうずくまってしまいました。首の捻挫かと思い、しばらく様子を見ていましたが、その後も痛みが続いていたため、5日目に横浜脳神経内科を受診しました。

MRIで脳の血管を撮像しました。

後頭部の急な頭痛

右の首から後頭部へ行く椎骨動脈の一部がコブのように飛び出ています。

この部分をT1BB法(T1 black blood method)という特殊な撮像法で確認したところ、

解離腔内血栓

血管内部が白く光って描かれています。これは血管内で血栓(血液の固まり)ができている事を意味します。

椎骨動脈解離という状態です。

この椎骨動脈解離が進行すると

  • ①血管が破れてくも膜下出血となる場合
  • ②血管が詰まって脳梗塞を起こす場合

という2通りの危険があります。

首に強い衝撃が加わるような激しいスポーツ(ラグビー、アメリカンフットボール、柔道など)をしている方は、後頭部の急な頭痛が起きた場合、この椎骨動脈解離を考える必要があります。

症例3

元々頭痛持ちではなかった40代前半の女性です。ある日39℃の高熱が出て、のどの痛みと倦怠感がありました。ほぼ同じ時期から、後頭部の急な頭痛とめまいをきたすようになりました。数日で風邪らしい症状はなくなりましたが、強い頭痛は5日間続いており当院を受診しました。

MRA検査で見たところ、

生物学的製剤によるRCVS1

脳底動脈という脳のほぼ中心部を貫く動脈の一部が細くなっており、可逆性脳血管攣縮症候群と診断しました。

生物学的製剤によるRCVS2

脳底動脈よりも細い動脈で後頭部から上の方へ行く後大脳動脈にも攣縮の状態が見られました。

通常可逆性脳血管攣縮症候群は、入浴咳やくしゃみ排便や排尿筋トレーニングなど何らかの誘因(trigger)が存在します。この症例では、従来から言われているそうした誘因がなく発症しており、何らかの感染により脳血管の変化を生じた事が推測されます。

 

症例4

50代前半の男性で、元々片頭痛のあった方です。症例3と同様、後頭部の急な頭痛とめまいが出現しました。頭痛が約1週間続くため、横浜脳神経内科を受診しました。

MRA検査では、

両側椎骨動脈MRA

右側の椎骨動脈が消えかかっており、左側の椎骨動脈も変形しています。

BPAS法という血管の外壁を描き出す方法で見たところ、

両側椎骨動脈BPAS

両側の椎骨動脈の外壁は膨らんだ状態です。

この所見から、両側の椎骨動脈解離と診断しました。通常椎骨動脈解離は症例2のように左右いずれかの片側に生じる事がほとんどで、両側同時に発症する事は極めてまれと言えます。

くも膜下出血または脳幹部の脳梗塞を発症する危険が高いと考え、救急車を依頼して脳血管の専門病院へ搬送しました。

 

椎骨動脈解離の発症メカニズム

この状態の生じるしくみを説明します。

きっかけは、何らかの無理な力が血管に加わる事で発症します。

椎骨動脈解離のメカニズム
  1. ①血管壁の内側がはがれると、すき間に血液が流れ込んで貯まってきます。
  2. ②貯まった血液は次第に固まってきて、内側に飛び出てきます。
  3. ③この部分は壁が薄くて弱いので、外側に膨らんでくる事もあります。

もし悪化した場合、
②が進行すれば血管が詰まって脳梗塞を起こす
③が進行すれば破裂してくも膜下出血を起こす

という2通りの危険があり得ます1) 。

 

後頭部の急な頭痛では、このように様々な原因があり得ます。また、生命に関わる重大な疾患の場合がある事に注意しなければなりません。当院では、こうした重大な疾患を迅速に診断するよう努力しています。

参考

  1. くも膜下出血はどう診断するか – 日本頭痛学会
  2. 頭痛について知る – 日本頭痛学会
  3. 解離性脳動脈瘤

(文責:理事長 丹羽 直樹

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