振るえの病気の原因

振るえの病気には、様々な原因があります。

パーキンソン病

パーキンソン病は中高年で発病する事が多く、まれに若い方でも若年性パーキンソン病として発症する場合もあります。

初発症状が手足の振るえである事が多く、進行すると歩きにくさや動作が遅くなったり、細かい作業が難しくなるなどの症状が加わってきます。振るえは左右いずれかの片側から始まる特徴があり、何か動作をしている時よりもじっとしている時に生じる傾向があります。ある程度治療は確立しており1)、当院では早期からのリハビリテーションが有効と考えます。厚生労働省の指定難病に指定されていて2)、重症の方は難病医療費療養制度が使えます。

 

本態性振戦

本態性振戦は「振るえ」が唯一の症状で、手足の振るえ以外にも首が振るえたり、声が振るえる事もあります。パーキンソン病とは逆に、じっとしている時よりも動作をしている時や一定の決まった姿勢でいる時に振るえる特徴があり、緊張すると振るえやすくなります。パーキンソン病のように進行して歩きにくくなったりはしません。

本態性振戦は、交感神経という身体を緊張や興奮状態にする神経系の過剰反応で起きます。精神的に緊張すると交感神経が活発になるため、脳からの過剰な刺激が筋肉に伝わって生じます。「病気」というより、交感神経が過剰反応しやすい「体質」といえます。

治療としては、交感神経遮断薬(アロチノロールやプロプラノロールなど)や抗てんかん薬(クロナゼパムやゾニサミドなど)を用いる薬物治療が主です3)。気管支喘息のある方の場合、交感神経遮断薬は喘息発作を悪化させるため使えません。薬で改善しない場合は、MRガイド下集束超音波療法(FUS:Focused Ultrasound)や脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)などが適応となる場合があります。

 

痙性斜頸

本態性振戦でも首の振るえは起きますが、一見似たような振るえ方の痙性斜頸という疾患があります。ジストニアと言われる不随意運動(自分では抑えられない運動)の一種で、本態性振戦とは異なる疾患です。頸部ジストニアとも言います。

ジストニア一般の治療として、日本神経学会ジストニアガイドライン2018にある通り、薬物治療が基本となります。ボツリヌス療法(ボツリヌストキシンという注射薬を首の筋肉に打つ治療)や、抗てんかん薬や筋弛緩薬などの内服薬を用います。改善が難しい場合、本態性振戦と同様脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)を行う事もあります。

 

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

本態性振戦と同じような手足の振るえを生じます。振るえ以外に、動悸や身体が暑く感じたりするのが特徴です。血液検査で甲状腺ホルモンを測る事で診断が確定し、内分泌内科での専門的治療が必要となります。

 

てんかん

てんかんとは、脳の神経細胞の活動が過剰となり手足の振るえやけいれんを起こす疾患で、意識をなくす場合もあります。日本てんかん協会日本てんかん学会のサイトに、てんかんについて分かりやすく書かれています。

脳に何らかの疾患があって起こる「症候性てんかん」と、それがない「特発性てんかん」とに分けられます。症候性てんかんの原因には、脳腫瘍や脳卒中など様々な疾患があり、MRI検査で原因となる疾患を調べる必要があります。脳の疾患が否定された場合には、抗てんかん薬での薬物治療が主となります。

身体の一部にだけ症状が出る「部分てんかん」と、意識をなくして全身のけいれんや硬直を生じる「全般てんかん」とがあり、スマートフォンで動画を撮影して持参していただけると診断の参考になります。脳波検査を行う事もありますが、必ずしも常に異常が出るわけではないので、それだけで診断するのは困難です。

 

脳卒中(脳血管障害)

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)で振るえやけいれんを生じる事もあります。

後遺症として後になってから起こる場合もあれば、脳卒中発症の初期症状の場合もあります。特にくも膜下出血の場合は、緊急を要する疾患のため、MRI検査は必須となります。

くも膜下出血は、後頭部の急な頭痛で発症する事がほとんどですが、けいれんや意識消失で発症する場合もあります。

 

ミオクローヌス

ミオクローヌスとは、身体の一部が瞬間的にピクッと振るえる状態で、長く振るえ続けるものではありません。

下記のような様々な原因で起こります。

1. 生理的ミオクローヌス

睡眠時単収縮、不安誘発性、運動誘発性、しゃっくり

2. 本態性ミオクローヌス

家族性本態性ミオクローヌス、夜間ミオクローヌスなど

3. てんかん性ミオクローヌス

てんかん発作の部分症状、ミオクローヌスてんかん

4. 症候性ミオクローヌス

蓄積症(リピドーシス、セロイドリポフスチノーシスなど)

ミトコンドリア機能異常にともなうミオクローヌス

脊髄小脳変性症

大脳基底核の変性(Wilson病、大脳皮質基底核変性症など)

感染症

代謝性疾患(肝不全、腎不全、CO2ナルコーシス、透析症候群、低Na、無酸素脳症、熱中症など)

傍腫瘍症候群

局所の中枢神経障害(視床術後、外傷、脳血管障害、脳腫瘍)

5. 中毒性ミオクローヌス

ビスマス、重金属、臭化メチル。ドーパ、リチウム、水銀、アルミニウム</p

6. 薬剤性ミオクローヌス

抗パーキンソン病薬 抗うつ薬、ドパミン阻害薬、抗てんかん薬、オピオイド薬剤、抗がん剤、抗生物質、心血管系薬剤、全身麻酔薬、抗ヒスタミン薬

まずは原因となる疾患を調べ、適切な治療を開始する事になります。

 

参考

  1. 日本神経学会:ふるえ、かってに手足や体が動いてしまう
  2. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
  3. 難病情報センター:パーキンソン病
  4. 日本神経治療学会 標準的神経治療:本態性振戦

 

(文責:理事長 丹羽 直樹

Verified by MonsterInsights