なぜ診断ミスが起こるのか?これは医療につきものの課題です。当院では以下の事を徹底しています。
- ①完全予約制で診療の質を維持。
- ②ダブルチェックで見落としを防ぐ。
- ③脳血管を含めたMRI検査。
1.診断ミスを減らすために
安全のための工夫
医療において、誤診を完全になくす事は不可能です。 人間の身体はどの人にも共通の仕組みがある反面、生物として個体差を持っている以上、同じ治療をしても全ての人が同じように効果があるわけではありません。 一人ひとり性格が違うように、同じ病気でも現れる症状が異なり、副作用や薬の効果にも幅があります。判断をする医師自身も人間である以上、不確実さを持っています。
治療の結果が期待通りでなかった時、それを医師はある一定の割合で起こり得る想定内の合併症ととらえますが、患者さんは誤診や医療ミスだと思い込みます。
手術も薬も、あえて人間の身体に何らかの害を与える行為です。得られるメリットの方が上回る場合にその治療を行うのです。人体に害を与える以上、100%安全と言える医療は存在しませんが、少しでも安全に近づけるために、当院では次の事を実践しています。
- ①完全予約制:時間に追われながら「こなす」仕事をしていると、思い込みや勘違いの起こる率が高くなり、思考停止した診療になりがちです。診察の待ち時間を減らすためだけでなく、医師が考えるための時間を設けるため、当院では1日の受診人数を制限して完全予約制とし、診療の質を維持しています。
- ②複数の医師がダブルチェック:医師一人ひとりの経験値も考え方も異なるため、同じ症例に対して複数の目で確認する必要もあります。患者さんが帰った後であっても、診断の見直しを行い、診察の時と違う見解となった場合には、それをお伝えしています。
- ③脳血管の撮像:当院では、脳の病気がないかを確認するためにMRI検査を行いますが、必ず同時に脳血管の撮像も行っています。脳自体に異常がなくても、脳血管の変化が頭痛の原因となっている場合があるからです。
誤診は決して0にはできないという事実を分かっているからこそ、少しでも正確な診断と治療に近づけるために、当院では常に自分達の知識と技術を見直すよう努力しています。
2.問診の重要性
問診とは、患者さんから症状と経過を聞いて判断することです。頭痛診療では、問診の的確さが正しい診断のきっかけになります。
- 頭痛がどんなふうに始まったのか?
- 繰り返す痛みなのか?持続しているか?
- どの場所が痛むか?
- どんな時に痛みが強くなるか?
- 頭痛以外の症状がないか?
などの質問をして、その結果から頭痛の原因を推測して検査の方法を決めていくのです。
当院で行っている問診の一場面をお伝えします。
問診例1 緊張型頭痛?
頭痛について書かれた様々な本やサイトを見ると、肩こりで起きる「緊張型頭痛」が最も多いと書かれています。
以下、間違いに陥りやすい問診の例です。
医師:「肩がこっていませんか?」
患者:「よく肩がこります。」
医師:「それなら肩こりからくる緊張型頭痛ですね。」
患者:「何か脳の病気ではないでしょうか?」
医師:「心配なら脳のMRI検査をしましょう。肩こりは頚椎(首の骨)のせいだから、首のレントゲンも撮りましょう。」
(検査が終わって)
医師:「MRIは問題ありません。(頚椎のレントゲンを見て)このようにストレートネックだから肩がこりやすくて頭痛が起きるのです。筋肉をほぐす薬と精神安定剤を出しておきます。」
しかし、処方された薬を飲み、マッサージに通った結果、 「肩こりは多少取れたけど頭痛は全然良くならない、むしろかえってひどくなった。もらった薬を飲んでも効かない。」 というケースも多いです。
この緊張型頭痛という診断は、違っている事があります。 ストレートネックだから肩がこり、それが原因で頭痛が起きるという、明確な医学的根拠は示されていません。
一方、片頭痛の特徴は以下の通りです。
<痛み方>
- ズキンズキンと脈に合わせて痛い
- 脈打たず鈍い痛みが続く時もある
<場所>
- 目の奥、こめかみ、後頭部などが痛い
- 首や肩、時々歯も痛くなる
- 髪の毛や顔の皮膚がピリッとする
<痛みの強さ>
- 痛くて仕事にならない
- 痛くて寝込んでしまう
- 運動、入浴、飲酒で悪化する
<頻度>
- 平均的には月に1~2回、多い時は毎週
- 半日~3日位で治まる
- 女性では月経の時に多く、更年期に悪化する
<頭痛以外の症状>
- 吐き気、嘔吐を伴う
- めまいを伴う
<季節>
- 夏の日差しの強い時に多い
- 梅雨や台風の時期に多い
<生活環境からの影響>
- PCやスマホ、テレビの画面がとてもまぶしい
- 音がうるさく感じる
- 臭いが鼻につく
- 混んでいる電車や人混みに行くと痛くなる
これらが当てはまったら、片頭痛の可能性が高いと考えられます。
当院では、片頭痛のこうした特徴を意識して系統的に問診をします。
医師:「どんな時に頭が痛くなりますか?」
患者:「低気圧が来る時や夏の暑い時に多いです。」
医師:「どこが痛くなりますか?」
患者:「目の奥や首の後ろが多いです。」
医師:「PCやスマホを見ていて痛くなりませんか?」
患者:「そう言えば、そういう時に目の前がチカチカして痛くなります。」
医師:「吐き気はありませんか?」
患者:「吐くわけではありませんが、ムカムカします。」
すでにこれだけで、この患者さんは片頭痛だと言えます。
自分でも気が付いていない特徴もあるので、必要な情報を聞き出して診断しています。
問診例2 片頭痛?
30代の女性で、数年前から月に1-2回繰り返す頭痛がありました。
夏の暑くて日差しの強い時期になると、頭痛が多くなり、吐き気やめまいもあったようです。 (一般に片頭痛は夏になると悪化します)
片頭痛ということでトリプタン系の薬を服用していました。
翌年の夏に頭痛が頻繁に起きるようになったので、「また暑い時期になったから片頭痛が増えてきたかな?」 ということで、 今度は片頭痛の予防薬を服用し始めました。
2ヶ月間飲んでみましたが、一向に頭痛は減らず、今まで効いていたトリプタンという薬も全く効かなくなりました。
ほぼ毎日のように頭痛が続き、めまいや立ちくらみが増えてきました。トリプタンの種類を変えてみたり、予防薬を様々試しましたが、
どれも効果がないまま1年半が経っていました。
この患者さんが、当院を初めて受診した時に尋ねてみました。
医師:「本当に毎日? それも1年以上もずっと頭が痛いんですか?」
患者:「ほとんど毎日頭痛があって、痛くない日の方が少ないです。」
医師:「どこがどんな感じに痛くなりますか?」
患者:「後頭部の重たい感じの痛みで、時々額の部分も痛くなります。」
医師:「横になった時に痛みが軽くなりませんか?」
患者:「そうです。立って仕事をしていると痛くなります。」
医師:「今、その痛みがありますか?」
患者:「はい、痛みます。」
医師:「では、ここで試しに頭を下に下げてみてください。」
(その場で頭を下にしてもらい)
医師:「どうですか?痛みが軽くなっていませんか?」
患者:「ああ、確かに痛みがなくなります。」
(頭を元に戻してもらい)
医師:「では、今度は私が首を少し押してみます。」
(両側から首の部分を軽く圧迫し)
医師:「どうですか?この時も頭痛が軽くなりますか?」
患者:「確かに、痛みがなくなります。」
これで、診断はほぼ「脳脊髄液減少症」だろうと推測されます。
片頭痛では脳の血管が拡張する事が多いので、頭を下げるとさらに血管が拡がって痛みが強くなる事が多いのです。
この患者さんは、逆に頭を下げたら頭痛がなくなったり、首の両側を圧迫して脳内の圧力(脳圧)を挙げる動作で頭痛がなくなりました。
脳圧が上がる事で頭痛が改善するという事は、「脳脊髄液減少症」という、脳内の髄液という液体が足りないために生じている頭痛と考えられます。
立っている状態
横になった状態
この脳脊髄液減少症については、一部では複雑な社会的問題も抱えていますが、本当のこの疾患においては、日常生活に大きな支障をきたす重度の頭痛疾患と言えるでしょう。
(参考)
実際の経験症例
問診とは、患者さんから症状と経過を聞いて判断する事です。
頭痛については、この問診が適確かどうかが診断の決め手になります。
- いつからどういうふうに始まったか?
- 繰り返しているか?持続しているか?
- どの場所が痛くなるか?
- どんな時に痛みが強くなるか?
- 頭痛以外の症状がないか?
などの質問をし、その結果から原因を推測しています。
この時点ですでに診断がついている場合もありますが、あらゆる原因の可能性を考えて、念のためにMRI検査を行っています。
3.検査をすれば安心?
頭痛外来で最優先されるのは、命に関わる危ない頭痛を見分ける事です。危険な頭痛でないかを見極めるために、MRIやCTは欠かせないツールです。しかし、検査をしても正確な診断に至らないこともあります。
検査をしたけれど安心できない…という患者さんが受診する事があります。
MRI検査で偶然病気が発見されたという場合、頭痛とは関係なく見つかった病気もあるので、検査は大事ですが、逆に検査で異常がないから何でもないわけではありません。
頭痛に限らず「痛み」というのは身体の何らかの異常を表すサインです。危険な頭痛を見分ける事が最優先ですが、次に頭痛の原因を解明して患者さんに安心していただく事が頭痛外来の目的です。
「効く薬がある」だけで安心できるかもしれません。
生活習慣を変える事で頭痛を減らせるかもしれません。
当院では、MRI検査で重大な疾患を鑑別した上で、患者さんの不安を安心に変えられるような診療を心掛けています。
4.頭痛外来のあるべき姿勢
頭痛で悩みながら、どの病院やクリニックに行けばよいのか迷っている方が多いかと思います。
大きな病院に行けば安心だと考える人もいるでしょう。しかし、大病院で何ができるのか、どんな分野が得意なのか、その病院のどの医師がよいのか、正確な情報はなかなか入ってこないのではないでしょうか。
頭痛外来では、
- 診療の経験や実績を記載している
- パターン化した診療を行わない
- 1人あたりの診療時間を充分に確保
- MRIで脳と脳血管の撮像を行っている
- 症状に合わせたMRI検査を行っている
などを重視しています。
頭痛診療は、決してパターン化した治療、決まった薬で解決できるものではありません。
当院で完全予約制にしている理由は、医師が考える時間を確保し、診療の質を維持するためです。
また、MRIは頭痛診断のために欠かせないツールですが、検査だけでは頭痛の原因が分からないない事もあり、多くの頭痛診療経験から得られた知識と技術が必要となります。
(文責:理事長 丹羽 直樹)