後頭部の頭痛や首の付け根の痛みの原因には、以下のような事が考えられます。
筋肉の緊張
長時間のデスクワークや不適切な姿勢により、後頭部や首の付け根の痛みを起こす事があります。
以下の対策が有効です。
ストレッチ
首や肩の筋肉の緊張を和らげるためには、定期的なストレッチが効果的です。特に、首の後ろの筋肉を伸ばすストレッチを行うと血行が改善され、痛みが軽減される事があります。たとえば、首をゆっくりと左右に倒したり、前後に動かしたりする事で、筋肉をほぐす事ができます。横浜脳神経内科では、その一貫としてヨガによる治療を行っています。
温熱療法
温めることも痛みの緩和に役立ちます。温かいタオルやカイロを首や肩に当てる事で、筋肉の緊張がほぐれ、血行が促進されます。入浴の際に、肩や首が浸かった状態で長湯をしてみると効果的でしょう。
姿勢の改善
日常生活での姿勢も痛みの原因となります。特に、長時間同じ姿勢でいたり、スマートフォンを長時間使用する事は、首や肩に負担をかけるため、意識的に姿勢を正すことが重要です。背筋を伸ばし、肩をリラックスさせるよう心がけましょう。
後頭神経痛
後頭神経痛は、首の筋肉が過剰に緊張する事によって神経が圧迫されて起こります。ズキンとする刺すような後頭部の痛みで、長時間の同じ姿勢によって悪化します。当院の経験では、片頭痛のある方に多く生じる傾向があります。片頭痛では痛覚に対して過敏な状態が生じるためと推測されます。
対策としては、筋肉の緊張の緩和方法と同様です。また、片頭痛もある場合には、脳の過敏状態を和らげるためにPCやスマートフォンをなるべく見ないようにしましょう。
片頭痛
後頭部の頭痛は、片頭痛でも生じます。吐き気やめまいを伴う事もあり、痛みが強い場合には仕事もできず寝込んでしまう程です。
片頭痛の対処としては、いくつか自分でできる方法があります。こうした方法でなかなか改善されない場合には、適切な薬を用いる事も必要でしょう。
くも膜下出血の前兆
後頭部の頭痛が突然生じた場合、くも膜下出血の前兆である可能性もあります。この場合、痛みは非常に強く、急激に発生する事が特徴です。脳動脈瘤という、脳動脈にできたコブが破裂して発症します。
くも膜下出血は、最悪突然死もあり得る危険な疾患です。
- ・〇月〇日〇時頃に痛くなったと言えるほど突然の痛み。
- ・今まで経験した事のないような激しい痛み。
- ・吐き気やめまい、手足のけいれん、気が遠くなる感覚もある。
こうした場合には、直ちに専門医を受診してください。
椎骨動脈解離
後頭部の頭痛で、もう一つ緊急を要する疾患が椎骨動脈解離です。椎骨動脈という、頚椎の両側を上がっていく血管が裂けて痛みを生じます。また、動脈瘤を形成してくも膜下出血を発症する場合があります。したがって、早期の診断が大切です。
以降、実際に横浜脳神経内科を受診した症例を提示します。
後頭部の頭痛の症例1
元々片頭痛のある50代の女性です。朝起きた際に、左の首に強い痛みを感じました。 寝違えたかと思い、首を少し曲げたところ、痛みはさらに強くなりました。翌々日になっても痛みが続いていたため、当院を受診しました。
MRA検査を行いました。

左椎骨動脈(左の首から後頭部へ行く血管)が変形しています。
この所見だけを見ると、椎骨動脈解離とも可逆性脳血管攣縮症候群とも取れます。
そこで、T1BB法(T1 black blood method)という特殊な撮像法を行いました。

白く写っている部分が、左椎骨動脈の内側にできた血栓を示します。椎骨動脈解離の進行過程において、血管壁に血栓ができます。そこで、この血栓を描き出せれば診断ができます。
後頭部の頭痛の症例2
元々片頭痛のある30代の女性です。スポーツジムで筋トレーニングをしていた際、突然右の後頭部から首にかけて激痛が走りました。翌日になっても痛みが続いていたため、当院を受診しました。
MRA検査を見てみました。

右椎骨動脈(右の首から後頭部へ行く血管)に、症例1と同じ様な変化があります。
しかし、T1BB法で見ても血栓を示す白い部分はありません。
さらに、ASL(arterial spin labeling)法1)という脳血流を見る検査で、
後頭葉の血流が低下しており、これは可逆性脳血管攣縮症候群でしばしば見られる所見です。
このように、複数の検査方法を組み合わせる事で、この症例は椎骨動脈解離ではなく椎骨動脈に生じた可逆性脳血管攣縮症候群と診断できます。
対策
後頭部の頭痛には、放っておいても問題のない場合もあれば、緊急な疾患の場合もあります。痛み以外にどんな症状があるか、今までになかった痛みかどうかなどを考えてみてください。心配な場合は、ためらわず受診をしてください。横浜脳神経内科では、日本頭痛学会、日本神経学会、日本脳卒中学会の専門医が診療を担当しています。
参考
- 未破裂脳動脈瘤の自然経過に関する大規模研究の結果発表 – UCAS JAPAN 日本脳神経外科学会
- 後藤 淳, 脳動脈解離. 98:1311-1318, 2009.
- 森田 隆雄. 有廣 昇司, 鶴﨑 雄一郎, 坂井 翔建, 芳賀 整. Arterial spin labeling法による頭部MR灌流画像で血行動態を評価した 頸部内頸動脈攣縮症の1例. 臨床神経 2022 May;62(3):178-183.
- Jérôme Mawet, Stéphanie Debette, Marie-Germaine Bousser, Anne Ducros. The Link Between Migraine, Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and Cervical Artery Dissection. Ann Neurol. 2010 May;67(5):648-56.
(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹)