物が二重に見える病気(複視)は、以下のような原因があります。
単眼性複視
眼球内を通過する光が網膜に届くまでの経路の異常で生じます。つまり、目の異常であり、眼科を受診するようお勧めします。
以降、両眼性複視の場合について説明します。
両眼で物を見る時、左右の眼球は自動車のワイパーのように同時に動きます。これは、眼球を動かす筋肉(外眼筋)が同じ方向へ眼球を引っ張るからです。

ところが、この外眼筋の動きに左右差が生じると、左右の眼球は違う方向へ向きます。すると、脳の内部では2つの物を見ていると認識するので、複視を生じます。
原因としては、
- ・外眼筋に障害が起きた場合
- ・外眼筋に脳から命令を伝える神経系の異常
- ・脳の異常
が考えられます。
具体的には、物が二重に見える病気としては、以下の可能性があります。
甲状腺眼症
甲状腺に関連した抗体が外眼筋を攻撃して炎症が起こり、動きが鈍るために複視を生じます。治療には、免疫を正常化するためにステロイドホルモン剤を用います。
重症筋無力症
神経と筋肉の接続部分(神経筋接合部)に対する抗体が作られるために発症します。脳からの命令が神経から筋肉に伝わらなくなるため、筋肉の疲れやすさが起きてきます。全身の筋肉に症状が出る可能性があり、進行すると呼吸筋や嚥下筋が動かず、呼吸ができなくなる場合もあります。最初に外眼筋が障害される事が多く、物が二重に見えたり、眼瞼が下がってくるなどの症状が出ます。
治療としては、ステロイドホルモン剤や免疫抑制剤を使います。その他には、抗体を取り除く血漿浄化療法、大量の抗体を静脈内投与する免疫グロブリン静注療法、血中IgG濃度を減少させるモノクローナル抗体製剤、補体C5を特異的に阻害するモノクローナル抗体製剤があります。
また、胸腺という胸の部分にある臓器の異常を伴う場合があり、手術で取り除く事もあります。
脳梗塞
脳梗塞の場所によっては、脳からの命令が伝わらなくなって外眼筋が動かなくなる事があります。
脳動脈瘤
脳動脈瘤が動眼神経という神経を圧迫して生じる事があります。くも膜下出血を起こす危険のあるものであり、物が二重に見える病気として見逃してはならないものです。したがって、MRI検査が必要です。
Tolosa-Hunt症候群
片側の目の奥や周囲の激しい痛みが特徴です。動眼神経、滑車神経、外転神経という外眼筋に命令を伝える神経が障害され、物が二重に見える病気の1つです。また、まぶたが下がったり、前頭部の感覚が鈍くなるなどの症状も出ます。
目の奥にある海綿静脈洞という場所付近に炎症が起き、肉芽腫という固まりが神経を圧迫して生じます。MRI検査で肉芽腫が見つかれば、症状と合わせて診断が確定します。
治療には、ステロイドホルモン剤を用います。
当院での症例
40代の女性です。1週間前から右目の痛みがあり、数日後に物が二重に見えるようになっため、横浜脳神経内科を受診しました。診察してみると、右前頭部の感覚が鈍く、右眼が右へ動かない事が分かりました。
MRI検査をしたところ、
右の海綿静脈洞の部分に白く写る部分があり、症状と合わせて考えTolosa-Hunt症候群と診断しました。ステロイドホルモン剤で治療を開始し、徐々に改善がみられました。
参考
- 日本眼科学会|甲状腺眼症
- 難病情報センター|重症筋無力症
- 山本 大輔, 津田 笑子, 齊藤 正樹, 今井 富裕, 下濱 俊. 造影MRIで左動眼神経と三叉神経に造影効果をみとめた非典型Tolosa-Hunt症候群の1例. 臨床神経 2014;54:903-906.
(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹)