咳で頭痛が起きる原因・診断・対策
咳をした後に頭痛が起きて不安になったことはありませんか?この記事では、咳による頭痛の主な原因や診断方法、適切な対策や注意点について、専門医が分かりやすく解説します。
咳で頭痛が起きる主な原因
一次性咳嗽性頭痛
咳やくしゃみ、いきみなど、脳内の圧力が急激に上がる動作の直後に、突発的に頭痛が起きるのが一次性咳嗽性頭痛です。多くは数秒~数分で痛みが治まりますが、時に軽い痛みが2時間ほど続く場合もあります。40歳以上の中高年男性に多く見られます。有病率は1%程度と稀な疾患で、後遺症を残すような事のない良性の疾患です。
- ・痛みの部位:後頭部~両側性が多い
- ・痛みの性質:鋭い刺すような痛み
- ・持続時間:1秒~2時間
- ・約2/3にめまいや吐き気、睡眠異常を伴う
診断基準は、国際頭痛分類第3版によると以下のようになります。
A. BからDを満たす頭痛
B. 突発性に起こり、1秒〜2時間持続する
C. 咳、息み、ヴァルサルヴァ手技のいずれか(あるいはそれらの組み合わせ)に伴ってのみ誘発される
D. その他の疾患によらない
治療としては、インドメタシンが有効であるとされています。
可逆性脳血管攣縮症候群
咳をした途端、突然激しい頭痛をきたし、その後も頭痛を繰り返します。また、入浴や排便などの行為で頭痛が悪化する事があります。脳内の圧力が上がる動作により、交感神経系の過剰反応と脳血管内皮の変化が起こり、脳動脈の強い収縮を生じる事が原因です。
治療としては、脳血管を拡張するためのカルシウム拮抗薬(ベラパミル、ニカルジピン)や交感神経遮断薬(プロプラノロール)、鎮痛剤(インドメタシン、アセメタシン)などを用います。
咳で頭痛が起きる場合の診断
以下、実際に当院で経験した症例を元に説明します。
咳で頭痛をきたした症例
元々片頭痛のある30代女性で、風邪を引いて咳が続いていました。
強く咳をした後、後頭部の激しい痛みに襲われました。さらに、その後も咳で頭痛が起こるようになりました。また、トイレへ行き排便の際にも同様の強い痛みに襲われました。数日間で咳は治まりましたが、依然として頭痛は続いており、風邪にしてはおかしいと思い当院を受診しました。
頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。
脳動脈にくびれた部分と膨らんだ部分とが見られ、脳血管の収縮と拡張を示します。
したがって、症状の経過と画像所見から、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と診断しました。
一次性咳嗽性頭痛と可逆性脳血管攣縮症候群の主な違い
一次性咳嗽性頭痛と可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、どちらも突然の激しい頭痛を引き起こす可能性がありますが、その原因や病態には大きな違いがあります。正確な診断のためには、これらの違いを理解する事が重要です。
主な違いの比較表
| 特徴 | 一次性咳嗽性頭痛 | 可逆性脳血管攣縮症候群 (RCVS) |
|---|---|---|
| 原因 | 咳、くしゃみ、いきみ(ヴァルサルヴァ手技)、重いものを持ち上げるなどの頭蓋内圧が一時的に上昇する行為によって誘発される。 | 脳の血管が一時的に強い収縮(攣縮)と拡張を繰り返すことによる。ストレス、特定の薬剤、出産、労作、感情的興奮などが誘因となる。 |
| 頭痛の性状 | 突発的に始まり、激しい痛みから鈍い痛みまで様々。通常、両側性で後頭部に多い。 | 雷鳴頭痛(突然雷が鳴ったような瞬時にピークに達する激しい頭痛)が特徴的。しばしば繰り返す。 |
| 持続時間 | 数秒〜数分で消失することが多い。(診断基準では1秒〜2時間) | 頭痛の期間は1〜3週間にわたり、激しい頭痛発作を繰り返す事が多い。 |
| 画像検査 | 通常、頭蓋内に原因となる異常所見はない(「一次性」)。 | 脳血管の攣縮が画像検査(MRA/CTAなど)で確認される。脳梗塞、脳出血などの合併症を伴うことがある。 |
| 予後 | 比較的良性で、予後は良好なことが多い。 | 多くは自然に改善するが、合併症によっては後遺症を残すリスクがあり、早期の診断と治療が必要。 |
🚨 重要なお知らせ
突発性で激しい頭痛は、くも膜下出血などの命に関わる病気である可能性を否定できません。したがって、自己判断せず、すぐに専門医を受診してください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 咳をすると頭痛がする場合、すぐに病院へ行くべき?
A1. 他の症状がなく、痛みが軽度で短時間なら経過観察も可能ですが、頭痛が強い・長引く・繰り返す、または吐き気や視覚異常、手足のしびれなどを伴う場合は早めに受診しましょう。
Q2. 市販薬は効きますか?
A2. 市販薬(ロキソプロフェンやアセトアミノフェンなど)は効果が乏しい事も多いです。症状が続く場合は医師にご相談ください。
Q3. 咳以外の動作でも頭痛が起きます。なぜ?
A3. くしゃみ、重いものを持つ、排便時のいきみ、大笑いなど、脳内の圧力が急上昇する動作で同様の頭痛が起きる事があります。これも一次性咳嗽性頭痛や可逆性脳血管攣縮症候群の特徴です。
Q4. どんな時に特に注意が必要ですか?
A4. 突然激しい頭痛が起きる、痛みが長時間続く、吐き気・嘔吐・視覚異常・手足のしびれがある場合は、重大な疾患の可能性もあるため早めに受診してください。
Q5. 予防法はありますか?
A5. 咳やくしゃみを誘発する風邪・アレルギーの予防、喉の保湿、生活習慣の見直しなどが効果的です。
まとめ
咳による頭痛は多くが一時的で心配ない場合が多いです。しかし、症状が強い・長引く・繰り返す場合や、他の症状を伴う場合は早めに頭痛外来や脳神経内科を受診しましょう。
参考および文献
- ・一次性咳嗽性頭痛はどのように診断し、治療するか – 日本頭痛学会
- ・Ducros A, et al. The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016. Apr;56(4):657-73.
- ・Cough headaches- Mayo Clinic
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この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。
資格
- 日本神経学会神経内科専門医・指導医
- 日本頭痛学会専門医・指導医
- 日本脳卒中学会専門医
- 日本内科学会認定内科医
- 身体障害者福祉法指定医
(肢体不自由、平衡機能障害、音声機能・言語機能障害、そしゃく機能障害、膀胱直腸機能障害)
略歴
- 1988年3月 千葉大学医学部卒業
- 1989年10月 松戸市立病院 救急部
- 1994年10月 七沢リハビリテーション病院
- 2002年4月 沼津市立病院 神経内科
- 2002年11月 長池脳神経内科開設
- 2012年11月 横浜脳神経内科開設


