片頭痛と脳梗塞

片頭痛と脳梗塞との関連については、過去様々な研究がなされてきました。

45歳未満で前兆のある片頭痛を有する女性では脳梗塞発症リスクが2倍、さらに喫煙と経口避妊薬の内服により7〜9倍に増加する他1)2)3)、50歳未満の前兆のある片頭痛を有する女性では年12回以上の発作がある事で2〜10倍に増加するというデータがあります。4)

しかしながら、この年齢層は元々脳梗塞発症率が10万人あたり5〜10人と極めて少ないため、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙、ピルの服用などの危険因子がなければ、片頭痛単独で脳梗塞のリスクになるとは必ずしも言えません

過剰に心配せず、片頭痛治療薬で発作回数をコントロールし、喫煙や経口避妊薬を避ける、生活習慣病の予防を勧めています。

片頭痛と脳梗塞の背景となる病態は、関連する点がいくつかあります。

・皮質拡散抑制

頭痛の前兆をひき起こす脳の電気信号の異常が脳の血流不足への耐性を弱くすると言われています5)6)。

・血管内皮機能不全

脳血管の内皮細胞の機能障害によって、血管の異常な収縮や拡張、解離、血栓形成の原因となります7)8)9)。

・卵円孔開存(PFO)

心臓の右心房と左心房を分ける壁が、通常は出生後に自然閉鎖しますが、小さな穴が開いたままになっている場合が成人の26%に認められ、多くの方が無症状です10)。国内のデータでは、前兆のない片頭痛の方の30%に、前兆のある片頭痛の方の54.8%にPFOが存在するとされ、片頭痛のある方ではPFOが存在する確率が高いと言えます11)。卵円孔開存は若年性脳梗塞の原因となる事が知られています。

 

片頭痛性脳梗塞

症例1

中学生の頃から片頭痛を繰り返していた40代の女性です。閃輝暗点などの前兆はありませんでした。

右のこめかみから目の奥の痛みが3日間続き、これまでにはない痛み方だったため横浜脳神経内科を受診しました。

頭部MRI検査(拡散強調画像)を見たところ、

右前頭葉梗塞

右の前頭葉という場所に小さな脳梗塞を認めました。これ以外にも、合計3ヶ所の脳梗塞を別々の場所に認めました。小さな血栓(血液の固まり)が脳血管の複数の場所に流れ込んで生じた脳梗塞と考えられました。

片頭痛を有する方に発症した若年性の脳梗塞である事や病変の分布から、卵円孔開存が関与した脳梗塞である可能性があり、心臓を含めた詳しい検査と治療が必要です。

片頭痛発作中に発症した脳梗塞である片頭痛性脳梗塞では64.7%に卵円孔開存が認められると報告されています12)。

60歳未満の脳梗塞の場合で、各種検査で他に明かな原因がない場合には卵円孔を塞ぐ治療が適応となる場合があります13)14)15)。

 

症例2

30代の女性で、中学生の頃から前兆のない片頭痛がありました。

3日前に突然激しい左後頭部の痛みと吐き気が出現し、その後も断続的に頭痛が強くなる状態が続いたため、横浜脳神経内科を受診しました。

頭部MRI検査(拡散強調画像)で、

左MCA-PCA

左の後頭葉頭に脳梗塞を認めました。

頭部MRA検査で血管を見たところ、

左MCA狭窄

左の中大脳動脈という血管に細くなって写りにくい部分がありました。可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を生じたため、左側の血流が悪化して脳梗塞を起こしたものと考えられました。

頭痛を伴わない場合もあります。

症例3

30代の女性で、IT系の業務に従事して以来、時々後頭部の重い感じがありました。

仕事中に突然左手足の力が入らなくなり、身体全体が重く感じるようになりました。何とか自宅に戻り、翌日横浜脳神経内科を受診しました。

左足を引きずりながら診察室に入ってこられ、脳の病気が疑われたため、直ちに頭部MRI検査を行ったところ、

左MCA-PCA

右の内包という場所に脳梗塞を認めました。

頭部MRA検査で血管を見たところ、

左MCA狭窄

右の中大脳動脈という血管が、断続的に細くなっている状態を認めました。雷鳴頭痛を伴わない可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)による脳梗塞を起こしたものと診断し、救急搬送により入院していただきました。

3症例とも元々片頭痛のある方で、いずれも閃輝暗点などの前兆はありません。また、脳梗塞のリスクファクターである高血圧症、糖尿病、喫煙、女性ホルモン剤服用などはありませんでした。いずれの症例も、脳梗塞としては軽症で、特に後遺症もなく経過しました。

当頭痛外来では、可逆性脳血管攣縮症候群は片頭痛と関連した疾患と捉えています。国際頭痛分類第3版で片頭痛性脳梗塞という分類がありますが、こうした症例のように片頭痛から可逆性脳血管攣縮症候群に変化して生じた脳梗塞が含まれるのではないかと考えられます。

 

文献

  1. Schurks M, et al. Migraine and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2009;339:3914.
  2. Etminan M, et al. Risk of ischaemic stroke in people with migraine: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ. 2005;330:63.
  3. Spector JT, et al. Migraine headache and ischemic stroke risk: an updated meta-analysis. Am J Med. 2010;123:612–24.
  4. MacClellan LR, et al. Probable migraine study. Stroke. 2007;38:2438–45.
  5. Seitz I, et al. Impaired vascular reactivity of isolated rat middle cerebral artery after cortical spreading depression in vivo. J Cereb Blood Flow Metab. 2004;24:526–30.
  6. Bigal ME. Migraine and cardiovascular disease. Arq Neuropsiquiatr. 2011;69:122–9.
  7. Jérôme Mawet et al, The Link Between Migraine, Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and Cervical Artery Dissection. Headache. 2016 Apr;56(4):645-56.
  8. Tietjen GE. Circulating microparticles in migraine with aura: cause or consequence, a link to stroke. Cephalalgia. 2015;35:85–7.
  9. Rodríguez-Osorio X, et al. Endothelial progenitor cells: a new key for endothelial dysfunction in migraine. Neurology. 2012;79:474–9.
  10. Shunichi Homma, et al. Patent foramen ovale and stroke. Circulation. 2005 Aug 16;112(7):1063-72.
  11. Akio Iwasaki, et al. Prevalence of Right to Left Shunts in Japanese Patients with Migraine: A Single-center Study. Intern Med. 2017 Jun 15; 56(12): 1491–1495.
  12. Wolf ME, et al.zabo K, Griebe M, Förster A, Gass A, Hennerici MG, et al. Clinical and MRI characteristics of acute migrainous infarction. Neurology. 2011;76:1911–7.
  13. Jeffrey L Saver, et al. Long-Term Outcomes of Patent Foramen Ovale Closure or Medical Therapy after Stroke. N Engl J Med. 2017 Sep 14;377(11):1022-1032.
  14. Lars Søndergaard, et al. Patent Foramen Ovale Closure or Antiplatelet Therapy for Cryptogenic Stroke. N Engl J Med. 2017 Sep 14;377(11):1033-1042.
  15. Jean-Louis Mas, et al. Patent Foramen Ovale Closure or Anticoagulation vs. Antiplatelets after Stroke. N Engl J Med. 2017 Sep 14;377(11):1011-1021.

 

(文責:理事長 丹羽 直樹

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