咳で頭痛

咳で頭痛が起きる原因・診断・対策

 

この記事の要約:咳頭痛の真実

  • 咳やクシャミによる頭痛は「良性」と自己判断せず、脳血管の異常を疑う必要があります。
  • 横浜脳神経内科の診療実績(2012-2025年)では、咳頭痛の原因となりうる可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を3,986例椎骨動脈解離を400例診断しています。
  • 一般的なMRIだけでは血管の細い痙攣を見逃す可能性があるため、高解像度MRA(血管撮影)による専門的な診断が不可欠です。

「風邪をひいて咳をするたびに、頭が割れるように痛い」
「クシャミをした瞬間、後頭部に激痛が走った」

このような症状で、「ただの風邪の影響だろう」「そのうち治るだろう」と我慢していませんか?
多くの医療サイトでは、咳による頭痛を「一次性咳嗽(がいそう)性頭痛」として、良性のものであると解説しているケースが見られます。

しかし、数多くの脳血管障害を診断してきた当院の見解は異なります。
その頭痛の背後には、くも膜下出血や脳梗塞につながりかねない「血管のけいれん」「血管の裂け目」が隠れている可能性が高いのです。

 

咳で頭痛

 

1. 咳頭痛の正体:なぜ「咳」で頭が痛くなるのか?

咳、クシャミ、いきみ、大笑いなどの動作は、一時的に胸やお腹の圧力(胸腔内圧・腹圧)を急激に高めます。これを「バルサルバ負荷」と呼びます。
この圧力が脳の静脈圧を上昇させ、頭痛を引き起こすのが一般的なメカニズムですが、問題は「なぜ痛みが続くのか」「なぜ激痛なのか」です。

当院のデータに基づくと、単なる圧力の変化だけでなく、その刺激がトリガーとなって脳の血管自体に物理的な異常(攣縮や解離)が起きているケースが極めて多く見受けられます。

 

2. 「3,986例」の現実

多くの病院やクリニックでは、MRIで脳に腫瘍や出血がないことを確認すると「異常なし(良性の咳頭痛)」と診断しがちです。しかし、当院では「脳実質(脳の中身)」だけでなく「脳血管」を徹底的に解析することで、多くの隠れた病気を見つけ出してきました。

以下は、2012年11月から2025年12月までに当院で確定診断に至った、咳頭痛の原因となりうる主な疾患の実績数です。

疾患名当院の診断実績数特徴とリスク
可逆性脳血管攣縮症候群 (RCVS)3,986例脳の血管が多発的に痙攣(収縮)する病気。咳や入浴が引き金になり、雷に打たれたような激痛が生じます。見逃すと脳梗塞や出血のリスクがあります。
椎骨動脈解離400例首の後ろを通る重要な血管が裂ける病気。咳やクシャミの衝撃で発症し、くも膜下出血や脳梗塞の原因となる緊急性の高い状態です。
未破裂脳動脈瘤353例咳による血圧上昇で破裂するリスクがあります。
脳腫瘍47例腫瘍が頭蓋内の圧力を高め、咳をした際に痛みが増強することがあります。
※横浜脳神経内科 2012年11月1日〜2025年12月31日の確定診断実績より抜粋

 

特に注意が必要な「RCVS」とは?

約13年間で3,986例という数字は、国内の脳神経内科の中でも突出した診断数です。
RCVSは、市販の鎮痛薬では改善せず、血管の攣縮が治まるまで専門的な管理が必要です。「咳をすると痛い」という訴えの患者さんを詳しく調べると、MRA(血管撮影)画像で血管が数珠状に細くなっている所見が頻繁に見つかります。
この圧力が脳の静脈圧を上昇させ、頭痛を引き起こすのが一般的なメカニズムですが、問題は「なぜ痛みが続くのか」「なぜ激痛なのか」です。

 

3. 一次性咳嗽性頭痛とは?

ここで、他の医療サイトでしばしば取り上げられる「一次性咳嗽性頭痛」について説明します。

咳やくしゃみ、いきみなど、脳内の圧力が急激に上がる動作の直後に、突発的に頭痛が起きるのが一次性咳嗽性頭痛です。多くは数秒~数分で痛みが治まりますが、時に軽い痛みが2時間ほど続く場合もあります。40歳以上の中高年男性に多く見られます。有病率は1%程度と稀な疾患で、後遺症を残すような事のない良性の疾患です。

  • ・痛みの部位:後頭部~両側性が多い
  • ・痛みの性質:鋭い刺すような痛み
  • ・持続時間:1秒~2時間
  • ・約2/3にめまいや吐き気、睡眠異常を伴う

診断基準は、国際頭痛分類第3版によると以下のようになります。

A. BからDを満たす頭痛
B. 突発性に起こり、1秒〜2時間持続する
C. 咳、息み、ヴァルサルヴァ手技のいずれか(あるいはそれらの組み合わせ)に伴ってのみ誘発される
D. その他の疾患によらない

治療としては、インドメタシン(1日50-200mg)が有効であるとされています。

 

4. 一次性咳嗽性頭痛と可逆性脳血管攣縮症候群の違い

一次性咳嗽性頭痛と可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、どちらも突然の激しい頭痛を引き起こす可能性がありますが、その原因や病態には大きな違いがあります。正確な診断のためには、これらの違いを理解する事が重要です。

しかし、実際には、咳で頭痛をきたして当院を受診した症例を検討すると、全てが可逆性脳血管攣縮症候群でした。従来一次性咳嗽性頭痛とされていた方の中には、充分な画像的検討がなされないままそのように診断されている場合が存在する可能性も考えられます。

特徴一次性咳嗽性頭痛可逆性脳血管攣縮症候群 (RCVS)
原因咳、くしゃみ、いきみ(ヴァルサルヴァ手技)、重いものを持ち上げるなどの頭蓋内圧が一時的に上昇する行為によって誘発される。脳の血管が一時的に強い収縮(攣縮)と拡張を繰り返すことによる。ストレス、特定の薬剤、出産、労作、感情的興奮などが誘因となる。
頭痛の性状突発的に始まり、激しい痛みから鈍い痛みまで様々。通常、両側性で後頭部に多い。雷鳴頭痛(突然雷が鳴ったような瞬時にピークに達する激しい頭痛)が特徴的。しばしば繰り返す。
持続時間数秒〜数分で消失することが多い。(診断基準では1秒〜2時間)頭痛の期間は1〜3週間にわたり、激しい頭痛発作を繰り返す事が多い。
画像検査通常、頭蓋内に原因となる異常所見はない(「一次性」)。脳血管の攣縮が画像検査(MRA/CTAなど)で確認される。脳梗塞、脳出血などの合併症を伴うことがある。
予後比較的良性で、予後は良好なことが多い。多くは自然に改善するが、合併症によっては後遺症を残すリスクがあり、早期の診断と治療が必要。

 

5. 「脳に異常はない」と言われた方へ:MRA検査の重要性

他院でCTやMRIを撮り、「脳はきれいです」「様子を見ましょう」と言われたにも関わらず、咳をするたびに頭痛が続く場合は注意が必要です。
通常のMRI(断層撮影)だけでは、「血管の形(攣縮や解離)」までは鮮明に見えていないことがあります。

  • MRI:脳の「実質(中身)」を見る検査(腫瘍や出血の有無)
  • MRA:脳の「血管」を見る検査(動脈瘤、狭窄、閉塞の有無)

横浜脳神経内科では、高精細な3.0テスラMRIを使用し、必ずMRA(血管撮影)を同時に行います。これにより、一般的な検査では見逃されやすい微細な血管の変化(RCVSの初期変化や、椎骨動脈解離のわずかな膨らみ)を捉えることが可能です。

 

6. 実際の症例

元々片頭痛のある30代女性で、風邪を引いて咳が続いていました。

強く咳をした後、後頭部の激しい痛みに襲われました。さらに、その後も咳で頭痛が起こるようになりました。また、トイレへ行き排便の際にも同様の強い痛みが出現しました。数日間で咳は治まりましたが、依然として頭痛は続いており、風邪にしてはおかしいと思い当院を受診しました。

頭部MRA検査で脳の血管を撮影しました。

 

咳で頭痛

 

脳動脈にくびれた部分と膨らんだ部分とが見られ、脳血管の収縮と拡張を示します。

したがって、症状の経過と画像所見から、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と診断しました。

 

7. よくある質問(Q&A)

Q1. 咳をすると頭痛がする場合、すぐに病院へ行くべき?

A1. 他の症状がなく、痛みが軽度で短時間なら経過観察も可能ですが、頭痛が強い・長引く・繰り返す、または吐き気や視覚異常、手足のしびれなどを伴う場合は早めに受診しましょう。

Q2. 市販薬は効きますか?

A2. 市販薬(ロキソプロフェンやアセトアミノフェンなど)は効果が乏しい事も多いです。症状が続く場合は医師にご相談ください。

Q3. 咳以外の動作でも頭痛が起きます。なぜ?

A3. くしゃみ、重いものを持つ、排便時のいきみ、大笑いなど、脳内の圧力が急上昇する動作で同様の頭痛が起きることがあります。これも一次性咳嗽性頭痛や可逆性脳血管攣縮症候群の特徴です。

Q4. どんな時に特に注意が必要ですか?

A4. 突然激しい頭痛が起きる、痛みが長時間続く、吐き気・嘔吐・視覚異常・手足のしびれがある場合は、重大な疾患の可能性もあるため早めに受診してください。

Q5. 予防法はありますか?

A5. 咳やくしゃみを誘発する風邪・アレルギーの予防、喉の保湿、生活習慣の見直しなどが効果的です。

 

8. まとめ

当院の診療経験では、実際に一次性咳嗽性頭痛だった例は1例もなく、ほとんどが可逆性脳血管攣縮症候群などの重大な疾患です。ご心配な方は、頭痛外来や脳神経内科を受診するようお勧めします。

 

9. 参考および文献

 

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この記事は横浜脳神経内科医師が書いています。

理事長 丹羽 直樹
理事長 丹羽 直樹

資格

略歴

  • 1988年3月 千葉大学医学部卒業
  • 1989年10月 松戸市立病院 救急部
  • 1994年10月 七沢リハビリテーション病院
  • 2002年4月 沼津市立病院 神経内科
  • 2002年11月 長池脳神経内科開設
  • 2012年11月 横浜脳神経内科開設
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