頭痛とめまいは、しばしば同時に現れる症状であり、様々な原因が考えられます。特に、前庭性片頭痛は、めまいを伴う頭痛の一つであり、全体の5-15%を占めるとされています。この病態は、反復するめまいの中に隠れている事が多く、注意が必要です。
頭痛とめまいの原因
脳の病気
頭痛とめまいがある場合、脳卒中や脳腫瘍、くも膜下出血などの深刻な病気が隠れている可能性があります。特に、突然の強い頭痛や意識障害がある場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。
内耳の問題
内耳の機能障害が原因で、めまいや平衡感覚の異常が生じる事があります。メニエール病は内耳のリンパ液の異常によって起こるめまいで、難聴や耳鳴りを伴う事が多いです。良性発作性頭位めまい症は、特定の頭の動きによって誘発される回転性のめまいが特徴です。
前庭性片頭痛
前庭性片頭痛は、めまいを伴う片頭痛の一種です。内耳の前庭神経と脳の特定領域との情報伝達の障害が原因とされています。この病態は、頭痛を伴わない事も多く、めまいの発作が突然起こり、持続時間は5分から72時間と個人差があります。また、前庭性片頭痛は、片頭痛の既往がある人や女性、ストレスや睡眠不足の影響を受けやすい人に多く見られます。
治療法としては、前庭性片頭痛に対しては、片頭痛予防薬や吐き気止めが用いられます。特に、バルプロ酸は、脳の過敏状態を抑える事で、めまいを抑制する効果があります。また、生活習慣の改善も重要です。規則正しい生活やバランスの取れた食事、適度な運動が推奨されます。
症例1
元々頭痛持ちだった20代後半の女性です。時々めまいがあり、耳鼻科で良性発作性頭位めまい症と言われた事がありました。ところが、ある日急に今まで経験した事のないような激しい回転性めまいと吐き気に襲われ、頭痛も出現して立っていられなくなりました。翌日横浜脳神経内科を受診しました。
頭痛とめまいが起きた場合、まず脳の病気を否定する必要があります。そこで、MRI検査を行いましたが、異常はありませんでした。
平衡感覚は耳の奥の内耳にある三半規管が関係します。
三半規管で頭の向きを感じた後、次にその情報は前庭神経から脳に伝わります。
体のバランスは
- 三半規管からの平衡感覚
- 目でみた視覚情報
- 足の裏で感じた感覚
などを脳の内部で統合して判断しています。そして、これらの情報にミスマッチが生じた場合にめまいを感じます。フワフワする浮動感や、回転性めまいの場合があり、立ちくらみと感じる事もあります。
片頭痛では、様々な感覚に過敏になります。痛みだけでなく、光や音、臭いに過敏になり、さらに平衡感覚に対して過敏になる事もあります。
この方の場合、よく聞いてみると、元々乗り物酔いしやすかったり、立ちくらみが多かったとの事です。つまり、揺れや体の動きに過敏になっている事の現れです。症状と経過から、日本めまい平衡医学会の診断基準1) に基づき、前庭性片頭痛と診断しました。
前庭性片頭痛は国際頭痛分類第3版2)でも正式に取り上げられています。
症例2
60代の女性です。1週間前から何となく頭が重い感じとめまい、軽い吐き気があり、風邪かと思い近所の内科医院を受診しました。ところが、診察した内科医は、風邪の症状はないと診断しました。しかし、歩いていると右へ傾くのでおかしいと感じ、脳の病気を疑い当院へ紹介され受診しました。
MRI検査をしたところ、
右の小脳に直径3.6mm位の脳腫瘍が見つかりました。小脳は体のバランスをコントロールしている場所です。つまり、ここが侵されるとめまいやふらつきを感じるようになります。
頭痛とめまいや吐き気がある場合、こうした脳の病気である場合もあります。
したがって、この方は精密検査や手術が必要と考え、総合病院へ紹介させていただきました。
頭痛とめまいの対処法
安静にする
症状が出た場合は、まずは安静にし、静かで暗い場所で休む事が推奨されます。これにより、症状が軽減する事があります。
水分補給
脱水症状が原因である場合もあるため、充分な水分を摂る事が重要です。
生活習慣の見直し
睡眠不足や不規則な生活は症状を悪化させる事があるため、生活習慣を見直す事も大切です。
医療機関の受診
頭痛とめまいが続く場合や、特に強い痛みを感じる場合は、専門医による診断と治療が必要です。横浜脳神経内科では、日本頭痛学会専門医・日本神経学会専門医・日本脳卒中学会専門医が診療を行っています。ご心配な方は、遠慮なくご相談ください。
文献および参考
- 日本脳卒中学会 – 脳卒中とは
- 日本神経学会 – 脳神経内科の主な病気(症状編)めまい
- 前庭性片頭痛 (Vestibular Migraine) の診断基準 (Barany Society: J Vestib Res 22: 167-172, 2012):Equilibrium Res Vol. 78(3) 230~231,2019
- 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類第3版(日本語版).医学書院,東京,2018
(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹)