性行為で頭痛が起きる事があります。性行為以外にも、自慰行為時の射精やオーガズムによる場合もあり、女性、男性ともに生じる可能性があります。その原因と対策、治療法について解説します。
原因
性行為に伴う一次性頭痛
国際頭痛分類第3版では、以下の診断基準となっています。
- A. B〜Dを満たす頭部または頸部(あるいはその両方)の痛みが2回以上ある。
- B. 性行為中にのみ誘発されて起こる。
- C. 以下の1項目以上を認める。
- ①性的興奮の増強に伴い、痛みの強さが増大。
- ②オルガスム直前か、あるいはオルガスムに伴い突発性で爆発性の強い痛み。
- D. 重度の痛みが1分〜24時間持続、または軽度の痛みが72時間まで持続。(あるいはその両方)
- E. ほかに最適なICHD-3の診断がない。
問題はEの部分で、何らかの脳の疾患が存在しない事が重要です。
くも膜下出血
突然に、これまで経験した事のないような後頭部の激しい痛みで発症します。吐き気や嘔吐、けいれんなどを伴う事もあります。脳動脈瘤という、脳の血管にできたコブが破裂して生じます。最悪突然死もあり得る疾患です。性行為で頭痛が起きた場合、最も危険な原因です。
脳出血
高血圧などにより、脳動脈が切れて発症します。手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくいなどの症状が出る事があります。
椎骨動脈解離
脳動脈の血管壁が裂けてヒビが入り、その隙間に血液が流れ込んで生じる脳動脈解離という状態があります。日本人では、椎骨動脈という首から後頭部へ上がっていく部分に多く、椎骨動脈解離と言われます。1-2ヶ月間で自然治癒する事がほとんどですが、悪化した場合にはくも膜下出血や脳梗塞を起こす危険があります。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
何らかの誘因によって、脳動脈が収縮を起こして激しい頭痛をきたす状態です。性行為が原因となる場合以外に、息を止めて力を入れる動作や運動などでも生じます。交感神経系が過剰な状態となるため、血圧が上がる事もあります。また、脳梗塞やくも膜下出血を合併する場合もあります。元々片頭痛のある方に起きやすい傾向があります。
診断と治療法
性行為で頭痛が起きた場合、当院の経験ではそのほとんどが可逆性脳血管攣縮症候群です。まれにくも膜下出血や椎骨動脈解離の場合もありますが、一次性頭痛であった症例は全くありません。つまり、強い痛みがあるという事は、必ず何らかの器質的原因が存在するという事です。
可逆性脳血管攣縮症候群では、内服薬として以下のものを用います。
- ・Ca拮抗薬(ニカルジピン、ベラパミル)
- ・交感神経遮断薬(プロプラノロール)
- ・抗てんかん薬(バルプロ酸)
- ・鎮痛剤(アセメタシン、インドメタシンなど)
くも膜下出血、脳出血、椎骨動脈解離では、手術が必要となる場合があるため、入院・手術のできる病院へ紹介しています。
性行為で頭痛を生じる原因には、重大な疾患が含まれ、診断にはMRI検査が必須です。したがって、直ちに専門医を受診する必要があります。
横浜脳神経内科では、日本頭痛学会専門医・日本神経学会専門医・日本脳卒中学会専門医が診療を行っています。女性の方も、ためらわず 受診してください。
文献
(文責:横浜脳神経内科 理事長 丹羽 直樹)